• 胸が痛い
  • ドキドキする
  • 咳が止まらない
  • 息が苦しい
  • お腹が痛い・胸やけ・下痢
  • いびきをかく・日中眠い
  • めまい・頭痛
  • 発熱・倦怠感
  • むくみ
  • 歩いていると足がだるくなる
  • 検診で異常指摘
胸が痛い

心臓に血液を送っている冠動脈が血栓で閉塞する心筋梗塞や動いた時に症状の出ることが多い冠動脈の狭窄による狭心症、夜間早朝や安静時に症状の出ることが多い冠攣縮性狭心症など、重篤な心疾患の症状や前兆であったりすることもあります。大血管の病気として大動脈解離、主に足の静脈などでできた血栓によって肺動脈が閉塞する肺塞栓症、逆流性食道炎、肺に穴が開いてしまう気胸、炎症による肺炎や胸膜炎、帯状疱疹や心臓神経症など様々な病気があります。

ドキドキする

脈の乱れる不整脈や、狭心症、心筋梗塞などの心疾患、甲状腺機能亢進症(ホルモン異常)、更年期障害、貧血や精神疾患などで起こることもあります。

主な症状/疾患

咳が止まらない(風邪の初期症状)

風邪や気管支炎、肺炎、肺結核や気管支喘息などの肺の病気や、心不全などが疑われます。

息が苦しい

横になったり動くと症状がでる心不全、肺気腫や気管支喘息、肺がんなどでも症状が出ることがあります。

主な症状/疾患

お腹が痛い胸焼け・下痢
 

主な症状/疾患

  • 虫垂炎
  • イレウス(腸閉塞)
  • 胃腸炎
  • 逆流性食道炎
  • 膵炎
  • 胆石による痛み
  • 胆嚢炎
  • 便秘
  • 胃潰瘍
  • 十二指腸潰瘍
  • 尿路結石症
いびき・日中眠い

睡眠中に呼吸が繰り返し止まってしまう睡眠時無呼吸症候群、不眠症やナルコレプシーなどがあります。

主な症状/疾患

めまい・頭痛
 

主な症状/疾患

発熱・倦怠感
 

主な症状/疾患

  • 風邪やインフルエンザ
  • 他の感染症
むくみ
 

主な症状/疾患

  • >>心不全や腎不全
  • 肝硬変など肝臓の病気
  • 低栄養
  • 甲状腺機能低下症
歩いていると
足がだるくなる
 

主な症状/疾患

  • 片方…足の動脈の血流が悪くなる下肢動脈閉塞硬化症や静脈瘤
  • 両方…脊柱管狭窄症
検診で異常指摘

糖尿病や高脂血症、高血圧症など心疾患などのリスクが高くなることもあり、精密検査や生活習慣の改善などを行っていくことが望ましいこともあります。

不整脈

この記事を書いた人

いのまたクリニック 院長 猪又雅彦

日本内科学会 日本循環器学会
日本心臓病学会 日本睡眠学会

【関わる全ての人を笑顔にすることが私たちの使命です。】

1.不整脈とは

不整脈とは、心臓の拍動(心拍)のリズムが、何らかの原因で乱れてしまう状態を指します。
心拍が通常よりも速くなる「頻脈(ひんみゃく)」と、通常よりも遅くなる「徐脈(じょみゃく)」、そして、一時的に心拍が飛ぶ(途切れる)「期外収縮(きがいしゅうしゅく)」の大きく3つのタイプに分けられます。

不整脈は、運動や発熱、精神的な興奮といった生理的な原因や生活習慣などで起こる場合もあり、健康な人であっても一時的に心拍が乱れることは珍しくありません。
しかし、不整脈の中には突然死を招くものや、心不全や脳梗塞などを引き起こす危険なタイプもあるため、動悸や息切れ、脈の異常などを感じた時には、放置せず、早期に詳しい検査を受けることをおすすめします。

心拍リズムのしくみ

心臓は、「心筋」という特殊な筋肉でできた袋状の臓器です。
その内部は、「左心房」「左心室」「右心房」「右心室」という4つの部屋に分かれており、規則的なリズムで拡張と収縮を繰り返すことで、全身に血液を送り届けるポンプのような働きをしています。

拍動の規則的なリズムは、右心房にある「洞結節(どうけっせつ)」で発生する微弱な電気刺激によってコントロールされており、心臓内に張り巡らされている「刺激伝導系」という回路を通って心房から心室へと伝達されます。
このように正常な拍動が行われている状態を「洞調律(どうちょうりつ)」と言い、電気が伝わる時に生じるわずかな時差によって心房と心室の拡張と収縮のタイミングがずれることで、血液が全身に送り出されます。

一般的な成人の拍動は、通常、一分間に60~80回程度で、一日にすると10万回にも及びます。心拍リズムの速度は常に一定ではなく、呼吸や運動、精神的な興奮などによって変動し、自律神経によって調整されていますが、何らかの原因で電気刺激が正しく作られなくなったり、信号の伝達がうまくいかなくなったりすると、心拍のリズムには乱れが生じて不整脈を引き起こします。

2.不整脈の種類

不整脈は、拍動の速さや状態により、「頻脈性不整脈」「徐脈性不整脈」「期外収縮」の3つに大きく分けられます。また、刺激伝導系の異常が心室(心臓の下の部屋)で起きるものを「心室性不整脈」、心房などの心室よりも上の部分で起こるものを「上室性不整脈」と言います。

頻脈性不整脈

頻脈性不整脈は、拍動が1分間に100以上になってしまう状態です。
心臓内の電気刺激が早く作られる、もしくは通常とは違う異常な電気の回路ができ、電気信号が堂々巡りをしてしまうことがおもな原因です。
頻脈性不整脈を発症すると、心臓には大きな負担がかかるため、動悸(どうき:心臓がドキドキ、バクバクする)、息切れ、胸の痛みなどの症状が現れ、心不全(心臓の機能低下)を招くことがあります。また、心臓内の血流が悪化して血栓ができると、血流に乗って脳の血管を詰まらせ、脳梗塞を引き起こすようなケースもあります。

≪おもな頻脈性不整脈の種類≫
    • 上室性不整脈
      名称特徴
      心房細動 (しんぼうさいどう)心房内に多数の不規則な電気刺激が起こり、心房が細かく痙攣したように震える状態。心不全や脳梗塞を引き起こすリスクが高い。
      心房粗動 (しんぼうそどう)異常な電気回路により、電気刺激が右心房内の同じ場所を回り続ける状態。心不全や脳梗塞を発症することがある。
      発作性上室頻拍 (ほっさせいじょうしつひんぱく)心臓の上の部屋(心房、洞結節、心房と心室の接合部)で起こる突発的な不整脈の総称で、突然、規則的なリズムの速い脈が生じるのが特徴。 原因となる部位によって、房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT)*1、房室回帰性頻拍(WPW症候群)*2、心房頻拍*3などに分けられる。

*1房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT)……心房と心室を中継する「心房結節(しんぼうけっせつ)」付近で電気信号が回り続ける
*2房室回帰性頻拍(WPW症候群)……正しい電気の通り道以外に、異常な回路が存在し、心室に伝わった電気信号が心房に戻ってきて回り続ける
*3心房頻拍……心房内の洞結節以外から異常な電気信号が発生することで起こる

  • 心室性不整脈
    名称特徴
    心室頻拍 (しんしつひんぱく)心室内で異常な電気刺激を発生する部位があり、心拍が異常に速くなる状態。心機能が低下し、十分な血液が送り出せなくなると、意識を失い、心停止に至ることもある。
    心室細動 (しんしつさいどう)心室内で痙攣が起き、小刻みに震える状態。心臓の機能が停止してしまうと数秒で意識を失い、至急、処置をしないと短時間で死亡する。

徐脈性不整脈

徐脈性不整脈は、拍動が1分間に50以下になってしまう状態です。
電気の通り道である刺激伝導系の機能が低下し、電気刺激が作られなくなったり、伝達の途中で止まってしまったりすることがおもな原因です。
心拍数が遅くなると、脳や全身に送る血液量が減って心不全の状態になり、息切れやめまい、疲労感などの症状が現れ、時には失神することもあります。

≪おもな徐脈性不整脈の種類≫
  • 上室性不整脈
    名称特徴
    洞不全症候群 (どうふぜんしょうこうぐん)洞結節の動きが一時的に止まり、電気刺激が作られなくなる状態。 持続時間が長いと血液が脳や全身に届かなくなり、心不全を起こすことがある。
    房室ブロック (ぼうしつぶろっく)心房から心室への信号の中継点である「房室結節」の機能が低下し、心房から心室への信号が伝わらなくなる状態。 心筋梗塞などの病気に伴って発症する場合、極端に脈が遅くなり、心停止することもある。

期外収縮

洞結節以外の場所から別の速い電気信号が出ることによって起こる不整脈です。
心拍が一時的に抜けたり、乱れたりするのが特徴で、通常は、数十秒程度で治まります。
不整脈の中で最も多いタイプで、30歳以上になるとほとんどの人に認められ、年齢と共に徐々に増加します。
期外収縮は、心臓病などで発症する場合もありますが、多くは年齢や体質などによって起こるもので、回数が少ない場合は特に心配ありません。
自覚症状がないことも多く、健康診断で指摘されるようなケースもありますが、発作が頻繁に起こるようになると、動悸や胸の不快感、脈が飛ぶ感じなどを感じるようになります。

≪期外収縮の種類≫
  • 上室性不整脈
    名称特徴
    心房性期外収縮 (しんぼうせいきがいしゅうしゅく)心房内で異常な電気信号が起こり、余分な拍動が生じる状態。 高齢者や肺の持病がある人の発症が多いが、健康な人に起こる場合もある。カフェインやアルコール摂取、風邪などの体調不良などが引き金になることがある。
  • 心室性不整脈
    名称特徴
    心室性期外収縮 (しんしつせいきがいしゅうしゅく)心室内で異常な電気信号が起こり、余分な拍動が生じる状態。 高齢者の発症が多いが、健康な人でもカフェインやアルコールの摂取、ストレス、薬剤によって生じることもある。心臓に持病がある場合、心室細動や心室頻拍などの危険な不整脈を招くことがある。

3.不整脈のおもな原因

不整脈を引き起こすおもな原因には以下のようなものがあります。

加齢

年齢が上がるにつれ、電気の通り道である「刺激伝導系」の働きが低下するため、60歳を過ぎた頃から心拍の乱れが起こりやすくなる傾向があります。

体質

生まれつき電気の伝わる回路(刺激伝導系)に異常があり、不整脈が起こりやすい体質を持っている方もいます。

生活習慣の乱れ

不規則な生活、過労、ストレス、睡眠不足などで自律神経が乱れると、交感神経が優位になって心拍数が上がり、心臓内の電気刺激も起こりやすくなります。
多量の飲酒や喫煙、カフェインの摂りすぎなどが原因で不整脈が起こることもあります。

基礎疾患

心筋梗塞、狭心症、心臓弁膜症、心不全といった心臓病の持病がある方は、二次的に心臓内を伝達する電気信号の異常も起こりやすくなるため、不整脈になるリスクが高まります。
また、高血圧も、心臓に大きな負担をかけるため、「心肥大(しんひだい:心臓の筋肉が厚くなって収縮力が弱まる)」による不整脈が起こりやすくなります。
その他、「バセドウ病」などの甲状腺異常や「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」などの肺の病気も不整脈を起こすことが分かっています。

薬剤

病気の治療で服用している薬が不整脈の原因になる場合もあります。
降圧薬や抗うつ薬をはじめとする内服薬の一部には、自律神経や心臓の電気の発生に作用する成分を含んでいるものがあり、不整脈を引き起こすことが知られています。

4.不整脈のおもな検査

不整脈には、危険性の低いものから高いものまで、たくさんの種類がありますが、重症度は必ずしも症状の強さに比例するとは限りません。ご自身の不整脈がどのようなタイプであり、治療が必要かどうかを知るためにも、詳しい検査を受けることが重要です。
不整脈の検査には以下のような種類があり、患者さんの状態に応じて必要なものを選択します。

心電図検査

心臓で発生する微量の電気を波型のグラフに記録する検査です。
ただし一般的に行われている「安静時12誘導心電図検査」だけでは、不整脈が見つけられない場合も多いことから、24時間心電図を記録する「ホルター心電図検査」や運動時の心電図を記録する「運動負荷心電図検査」などを行うこともあります。

画像検査(胸部レントゲン、心エコー)

レントゲンでは、心臓の大きさや形の異常の有無などを調べます。
心エコー(超音波検査)では、心臓の収縮力や弁の動きの状態などを調べます。

カテーテル(冠動脈造影)検査

血管の詰まりや狭窄の有無などを確認する検査です。
足の付け根などの血管から「カテーテル」と言われる細い管を挿入して心臓まで運び、心臓自身に栄養を送る「冠動脈(かんどうみゃく)」に造影剤を入れてX線撮影を行います。
カテーテル検査は入院が必要な検査です。必要に応じて近隣の提携病院をご紹介いたします。

EPS検査(心臓電気生理学的検査)

不整脈の状態を調べる検査です。
電極が付いたカテーテルを足の付け根などから挿入して心臓まで運び、電極で心臓に直接電気刺激を与えて不整脈を誘発し、拍動の状態を心電図で記録します。
EPS検査は入院が必要な検査です。必要に応じて近隣の提携病院をご紹介いたします。

血液検査

病気の有無や全身の健康状態を調べるため(甲状腺機能異常や電解質異常、心不全など全身状態を反映して不整脈となることがあります)、採血して血液を詳しく調べます。

5.不整脈の治療

不整脈にはたくさんの種類がありますが、現在では治療法の進歩により、ほとんどの不整脈が治療できるようになっています。治療内容は不整脈のタイプや重症度によってそれぞれ異なり、患者さんの状態に合わせて適切な治療を選択します。

頻脈性不整脈の治療

  • 薬物療法 抗不整脈薬……不整脈を改善、予防(脈を遅くするものや脈のリズムを整えるものなど)
    抗凝固薬……血栓ができるのを防ぎ、脳梗塞を予防する(おもに心房細胞など)
    漢方薬……不安や緊張を和らげる
    ※ただし、薬物療法は、薬の飲み方によっては別の不整脈を引き起こすこともあるため、しっかりと服薬の管理を行うことが大切です。
  • 電気的除細動(電気ショック)
    心室頻拍や心室細動などの致死性の高い不整脈が起こった時に緊急処置として行う治療です。機能を失った心臓に電気ショック(除細動)を与え、心拍を正常に戻す効果があります。
  • カテーテルアブレーション(心筋焼灼術)
    電極の付いたカテーテル(細い管)を足の付け根から挿入して心臓まで通し、頻脈の原因となっている部分に高周波の電流を流して焼き(焼灼:しょうしゃく)、不整脈を起こさないようにする治療です。薬物療法では症状が改善しない場合に行う治療で、不整脈を完治させることも可能です。
    入院が必要な治療です。近隣の提携病院をご紹介いたします。
  • 外科手術(メイズ手術)
    不整脈の原因となっている部分を切除することで、電気刺激をコントロールし、心房の痙攣を抑える治療です。薬物療法やカテーテルアブレーションで改善しない心房細動などに行いますが、身体への負担もあるため、心房細動単独の治療ではなく、弁膜症など他の病気の手術と同時に行います。入院が必要な治療です。近隣の提携病院をご紹介いたします。
  • 植込み型除細動器(ICD)
    心臓に電気ショック(除細動)を与える装置(ICD)を手術で体内に埋め込み、不整脈を感知した時に繰り返し電気刺激を発し、拍動を正常に戻す治療です。
    心室細動などの危険性の高い不整脈に行う治療で、ICDは4~5年位で電池交換が必要になるため、再手術で本体ごと交換する必要があります。
    入院が必要な治療です。近隣の提携病院をご紹介いたします。

徐脈性不整脈の治療

  • ペースメーカー
    手術で体内にペースメーカーを埋め込み、拍動が遅くなったのを感知した時に電気的な刺激を発することで、脈を一定に保ちます。ペースメーカーは定期的に動作確認が必要です。
期外収縮の治療(※症状のある方のみ)
  • 薬物療法
    抗不整脈薬……不整脈を改善、予防(脈を遅くするものや脈のリズムを整えるものなど)
    安定剤……不安や緊張を和らげる
    ※ただし、薬物療法は、薬の飲み方によっては別の不整脈を引き起こすこともあるため、しっかりと服薬の管理を行うことが大切です。
  • カテーテルアブレーション
    電極の付いたカテーテル(細い管)を足の付け根から挿入して心臓まで通し、頻脈の原因となっている筋肉の一部を高周波で焼き、不整脈を起こさないようにする治療です。
    強い症状があり、薬物療法では症状が改善しない場合に治療を検討します。
    入院が必要な治療です。近隣の提携病院をご紹介いたします。

6.不整脈を防ぐための生活上の注意

不整脈の中には、過労やストレス、寝不足といった生活習慣の乱れや体調不良によって発症するものも多く、軽度であれば、生活習慣を見直すことで、症状が改善する場合もあります。
日頃から、心臓に負担をかけないよう、以下のような点に気を付け、規則正しい生活を心掛けましょう。

  • 十分な睡眠をとる
  • 過労やストレスを避ける
  • バランスの良い食事を摂る(脂肪分やコレステロールの多い食事を控える)
  • コーヒーなどのカフェインや刺激となるものの摂取を控える
  • 適度な運動を行う(※症状によっては激しい運動を控える場合あり)
  • 温度差の少ない環境を保つ(空調や衣服でコントロールする)
  • 禁煙
  • 禁酒

※もともと心臓などの基礎疾患をお持ちの方は、不整脈のリスクを抑えるため、日頃から適切な治療で病気のコントロールを行うことが重要です。また、内服薬による不整脈が疑われる場合には、内服薬の見直しや変更が必要になる場合もあります。

7.よくある質問

1)不整脈は必ず治療が必要ですか?

不整脈があるからといって必ず治療を行うというわけではありません。重い基礎疾患がなく、自覚症状もない期外収縮などは、特別な治療は行わず、経過観察となる場合も多いです。
一方、心室細動のような致死性の高い不整脈は至急処置を行わないと命を落とす可能性がありますし、心臓などに基礎疾患がある方も、もし発作を起こすと命に関わることから、早期に適切な治療が必要になります。そのほか、自覚症状が強く、日常生活に支障をきたしているような場合や、心不全や脳梗塞の可能性があるなども治療が必要です。

2)危険な不整脈の症状は?

不整脈は、多くの人に起こる症状で、歳をとれば誰でも少しずつ増えていくものです。
その多くは心配のないものですが、意識を失ってしまう場合や、強い息切れやめまいなどが伴う場合、命に関わる危険な不整脈が疑われますので、至急、治療を受ける必要があります。

8.院長からひと言

不整脈は、本人にとってとても辛い症状である場合が多いです。
不整脈には、治療が必要なもの、症状があれば治療の対象となるもの、放置して良いものの3つに分類することができますが、あくまでも自己判断をしないことが大事です。
当院では心電図、血液検査、心臓超音波検査、ホルター心電図検査などを組み合わせて診断を行います。最近、当院では1週間の心電図を記録できる「Heartnote」を採用しました。これまでは装着を付けた日にたまたま何も症状が出なかった、ということも多々ありましたが、長期間の記録が可能になったことで、不整脈の診断につながりやすくなりました。
幸い、近隣には経験豊富な先生のいらっしゃる連携医療機関がありますので、カテーテルアブレーションなど入院での治療が必要な場合には、ご希望をお伺いし、適切な状態で治療を受けられるよう紹介も行っています。また、ウェアラブルウォッチやポータブル心電計も手に入るようになり、ご自身で心電図の記録をとることもできるようになっていますので、動悸などの気になる症状がある方はぜひ受診をご検討ください。

不眠症

この記事を書いた人

いのまたクリニック 院長 猪又雅彦

日本内科学会 日本循環器学会
日本心臓病学会 日本睡眠学会

【関わる全ての人を笑顔にすることが私たちの使命です。】

1.不眠症とは?

「不眠症=睡眠時間が問題」ではありません。睡眠時間が短くても、目覚めがすっきりしていて日常生活に支障をきたしていなければ、「不眠症」ではないのです。
不眠症は、何らかの睡眠問題がよく起こり(週2回以上・1か月程度続いている)、不眠が原因で日常生活に影響を及ぼしてしまう症状を指します。
厚生労働省による調査(2014年)では、日本人の成人の5人に1人(約20%)が慢性的な不眠であると報告*1されており、今や国民病の一つとなっています。

*1(参考)平成26年「国民健康・栄養調査」P.22|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000117311.pdf

不眠症の4つのタイプ

不眠症には大きく分けて4つのタイプがあります。

  1. 入眠障害
    眠ろうと布団に入っても中々寝付けないタイプ。寝付くまでに2時間以上かかるが、一度寝てしまうと朝まで寝られるタイプであり、不眠症の中では一番多いです。
  2. 中途覚醒
    眠りが浅く、夜中に何度も目が醒める(2回以上起きる)タイプ。また眠れることも多いのですが、細切れ睡眠となるため熟睡感(よく寝た感じ)が得られません。
  3. 早朝覚醒
    朝早く(午前3~4時頃)に目が覚めてしまい、その後眠れなくなってしまうタイプ。高齢者やうつ病の方にみられやすいです。
  4. 熟眠障害
    十分に睡眠時間を取っていても眠りが浅く、目覚めたときにぐっすり寝た気がしないタイプ。高齢者や神経質な人にみられやすいです。

不眠症による影響

不眠が続くと、次のような不調が現れ、日常生活にも影響が及びます。

  • 集中力・注意力・判断力・記憶力の低下
  • イライラする・気分がすぐれない・焦燥感(焦る感じ)がする
  • 日中の眠気
  • やる気・気力がでない
  • 社会的・職業的機能の低下、学業低下
  • 仕事中のミス・運転中に事故を起こしやすい
  • 緊張・頭痛・胃腸症状・めまいなどの身体症状がある
  • 倦怠感(だるい感じ)・疲れが取れない
  • 食欲不振

心配事があるとき、テストや旅行前、旅先などで、どなたでも1度くらい「寝ようと思っても寝られない」経験をお持ちではないでしょうか?眠れなかったとしても数日~数週間のうちにまた眠れるようになれば問題ありませんが、不眠が慢性化してしまって日常生活に支障をきたしている場合には、一度医師にご相談いただくことをおすすめします。

2.不眠症の原因

不眠症の主な原因は、次の通りです。

  1. ストレス
    対人関係や仕事上の悩み、緊張、喪失体験、旅先・入院の環境などがあると、心に負担がかかってしまい眠れなくなります。
    特に神経質・生真面目な性格の人は強く感じる傾向があり、不眠にこだわってしまい、不眠症に陥りやすくなります。
  2. 身体的疾患
    高血圧・心臓病(胸苦しさ)、呼吸器疾患(咳など)、腎臓病・前立腺肥大(頻尿)、糖尿病・関節リウマチ(痛み)、アレルギー疾患(かゆみ)、脳梗塞・脳出血など病気や病気に伴う不快症状が原因となります。
    特に、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)は睡眠に伴って呼吸異常・四肢の異常運動が現れるので、不眠に陥りやすくなります。
    原因となっている疾患や症状を治療することで、不眠症の改善につながります。
  3. 精神疾患
    うつ病・不安障害がある場合、不眠を伴うケースがよくみられます。
    「早朝覚醒」と「日中変動(朝は無気力だが、夕方にかけて元気が出てくる)」の両方がみられるときには、すみやかに医療機関へご相談することをおすすめします。
  4. 薬や嗜好品
    降圧剤・甲状腺製剤・抗がん剤、カフェイン(コーヒー・紅茶など)、ニコチン(たばこ)、アルコールなどは睡眠を妨げることがあります。
    また、アレルギー治療や酔い止めなどに使われる抗ヒスタミン薬は、日中に眠気を催すことがあります。
  5. 生活リズムの乱れ
    夜勤などのシフト勤務・海外渡航による時差ボケなどで、体内時計が乱れると不眠に陥ります。また、長期休みなどに長時間の昼寝、夜更かしなどを繰り返すことは、体内時計の乱れにつながります。
  6. 環境の変化
    枕を変えた、部屋が明るい・暑い、引っ越し、転職、工事の音がうるさいなど、身の回りの環境の変化によっても眠れなくなることがあります。
  7. 加齢
    白髪や老眼、体力低下と同じように、体内時計も加齢によって前倒しに変化するため、若い頃に比べて早寝早起きになります。また、睡眠の質も浅くなるのでちょっとした音で起きてしまいやすくなります。

当院では、高血圧・糖尿病などの生活習慣病や睡眠時無呼吸症候群など不眠症の原因となる様々な要因に対し、内科的アプローチからの総合的な診察を行っています。

3.不眠症の診察・検査

不眠症では、基本的に問診を中心に診察を行います。
診断にあたり、患者さまには「睡眠日誌*2」をつけていただき、「いつ頃から不眠症状が現れたのか?」、思い当たるきっかけ、治療歴や治療中の薬、寝室の環境など詳しくお伺いします。

*2睡眠日誌:布団に入った時刻、実際に眠った時刻、目が覚めた時刻、布団から出た時刻、昼寝をした時刻などを記録します。1~2週間続けてみると、自分の睡眠習慣のクセ(問題)が分かります。最近は、スマホで記録することができる無料アプリも配信されています。

なお、睡眠日誌・お薬手帳・検診結果などをお持ちの方はご持参いただくと、よりスムーズに診察が行えます。
そのほか、必要に応じて、睡眠時無呼吸症候群の検査や血液検査・心電図などを行うことがあります。

4.不眠症の治療

不眠治療のゴールは「薬に頼らなくても、十分な睡眠が得られるようにすること」です。
不眠症の治療には、薬を使わない治療法「非薬物療法」と「薬物療法」の2つがありますが、当院では、不眠の背景にある要因に合わせた対処法を行いつつ、必要に応じて睡眠薬などを使って症状を緩和させる「薬物療法」を併用して治療していきます。

薬を使わない治療法「非薬物療法」

  1. 生活習慣・環境の改善
    • 同じ時間に毎日起床する
      人の寝起きは「時刻」で決まっているのではなく、「体内時計」で調節されています。とりわけ起床から約14~16時間後に眠気を催します。週末の夜更かし・休日の寝坊・昼寝はほどほどにして、平日・週末に関わらず同じ時刻に起床・就床するようにしましょう。早寝早起きではなく、早起きが早寝に通じます。
    • 朝、太陽の光を浴びる
      太陽光など強い光には、体内時計の調整作用があります。
      早起きして太陽の光を浴びることで、夜寝付く時間が早くなります。
      逆に夜にスマホやテレビなど強い照明を浴びすぎると、体内時計が狂って早起きがつらくなります。
    • 睡眠時間や就床時刻を気にしない
      人によって十分な睡眠時間は異なります。「睡眠は8時間取らないといけない」なんてことはありません。年を取ると、必要な睡眠時間は短くなるものです。
      どうしても眠れないときは、思い切って布団から出ると良いでしょう。布団の中で長時間過ごすと、熟眠感(よく寝たと感じること)を得にくくなります。
      また、布団には眠くなったら入るようにしましょう。「寝る時間」にこだわりすぎて「眠ろう」とする意気込みが強いと、かえって頭を冴えさせてしまい、寝付きを悪くします。
    • 日中の眠気には、午後3時までに30分以内の昼寝を
      どうしても眠い場合には、午後3時までに20~30分の短い睡眠を取ると、夜の睡眠に影響もなく、頭がスッキリします。
    • 夜の食事は寝る3~4時間前までに済ませておく
      快眠の妨げにつながるコーヒーやお茶・栄養ドリンク剤などのカフェイン摂取は4時間前までに、喫煙も1時間前くらいから避けると良いでしょう。
    • 寝る前にはリラックスタイムを作る
      寝る前には、軽い読書や音楽、ぬるめの入浴、アロマテラピー、軽いストレッチなどを行って、副交感神経を優位にさせましょう。半身浴も心臓への負担が少なく、睡眠の質を向上させるので、おすすめです。 ※寝る前にテレビ・スマホの強い光を浴び過ぎることは、体内時計が狂う原因となります。
    • 眠りやすい環境作りを心がける
      音・温度・明るさなど睡眠がとりやすい寝室づくりも重要です。
      ベッド・布団・枕・照明など自分に合ったものを選びましょう。
      心地よい眠りのためには、室温を20℃前後、湿度を約40~70%に保つのが良いとされています。また、快眠のためには、布団内温度を33度前後(例:冬場なら羽根布団1枚・夏場ならタオルケット1枚など)にすると良いとされています。
    • 夕方に軽めの運動をする
      程よい肉体疲労は、心地よい睡眠につながります。運動は午前中よりも午後に少し汗ばむ程度の軽い運動をするとよいでしょう。また、厳しい運動を短期的に行うよりも、楽~ややきつい程度の有酸素運動(早足でのウォーキング・サイクリング・軽いジョギングなど)を少し長めに継続すると効果的です。
    • ストレスを発散する
      音楽・読書・スポーツ・旅行など自分に合った趣味を持つようにして、気分転換やストレス発散を図りましょう。
    • 寝る前のお酒はNG
      少量のアルコールは寝付きをよくしますが、睡眠の質(レム睡眠・ノンレム睡眠など)を下げる作用もあります。寝酒習慣が出来てしまうと、寝るのに必要な量が少しずつ増えてしまいます。また、アルコールによってトイレが近くなったり、睡眠作用が短時間となったり、夜中に目が覚める原因となります。
  2. 認知行動療法
    認知行動療法とは、不眠症の原因となっている睡眠についての考え方のクセを修正して、普段の行動を変えていく治療法です。
    「睡眠日誌」を付けて、ご自分の睡眠を見つめ直すことも大切です。
  3. 軽いストレッチ(筋弛緩法:きんしかんほう)や呼吸法
    寝る前に体の筋肉の緊張をほぐすような軽いストレッチ・筋弛緩法や呼吸法を行うことで、副交感神経が高まってリラックスするため眠りやすくなります。

    <簡単リラックス!筋弛緩法> 
    ポイント:「5秒間力を入れて15秒間ゆっくり緩める」を繰り返し、副交感神経を優位にさせましょう。
    親指を中に入れて握りこぶしを作り、5秒間力を入れる。
    5秒経ったら手を広げて緩め、手に血の巡りを感じながら15秒間リラックスする。
    1~2を繰り返して、3セットくらい行う
    ※こぶしを握りながら肘を曲げて脇を締めて、上半身に5秒間力を入れる→その後15秒間緩めるなどもおすすめです。

薬物療法

非薬物療法を行っても改善が見られないときや他の病気を合併しているときなどは薬物療法を用いて、日常生活にまで影響を及ぼしている不眠症状を改善することを目指します。

これまでの薬物療法では「ベンゾジアゼピン受容体作用薬(BZ系薬・非BZ系薬*3)」の使用が主流でした。強い催眠効果や抗不安・筋肉の緊張をほぐす作用がすみやかに現れる反面、認知機能への影響・転倒リスク・眠気の持ち越しなどの副作用や、長期的に服用による耐性・依存などの問題が懸念されていました。

*3(参考)BZ系薬および非BZ系薬:脳の興奮を抑えるGABA(ガンマアミノ酪酸)という神経伝達物質の働きを促して、脳の機能を低下させて眠気を促す。BZ系には催眠+抗不安・筋弛緩作用があるが、非BZ系は催眠作用のみ。薬の効き始める時間・効果の持続時間により、超短時間型~長時間型までの分類がある。主な薬剤:ゾルピデム(マイスリー®)、エスゾピクロン(ルネスタ®)、トリアゾラム(ハルシオン®)、塩酸リルマザホン(リスミー®)、エスタゾラム(ユーロジン®)、フルニトラゼパム(サイレース®)、ニトラゼパム(ネルボン®)、塩酸フルラゼパム(ダルメート®)、ハロキサゾラム(ソメリン®)など
2013年睡眠学会によるガイドライン*4の中で「BZ系薬の使用は最小限・短期使用に留めるべき」とする方針が出されたことで、近年、BZ系とは異なる作用機序の新しいタイプのお薬が登場しています。
*4(参考)睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン|厚生労働科学研究班・日本睡眠学会ワーキンググループ
http://www.jssr.jp/files/guideline/suiminyaku-guideline.pdf

当院では新しいタイプのお薬である、メラトニン受容体作動薬のラメルテオン(ロゼレム®)、オレキシン受容体拮抗薬のスボレキサント(ベルソムラ®)、レンボレキサント(デエビゴ®)を中心に治療を進めていきます。
これらのお薬は、睡眠・覚醒周期の生理的な物質の働きを調整することで「より自然な睡眠を促す」タイプであり、BZ系や非BZ系のような強い催眠効果はありませんが、依存性が極めて少なく、安全に使用できる特徴があります。なお、効果・副作用には個人差があります。

  • メラトニン受容体作動薬
    睡眠に深く関わるホルモン「メラトニン」の受容体に作用することで、BZ系・非BZ系睡眠薬で高頻度に起こっていた「反跳性不眠(はんちょうせいふみん)*5」「退薬症候*6」がなく、自然に近い生理的睡眠を誘導します。効き目が現れるまで、少し時間がかかります。
    *5(参考)反跳性不眠:薬を中止すると、反動で以前よりも不眠が強くなること。
    *6(参考)退薬症候:長期服用中、急に薬を中止・減量したときに起こる症状のこと。離脱徴候とも呼ばれ、不眠・不安・震え・発汗などの症状が一時的に現れる。

    主な薬剤:ラメルテオン(ロゼレム®)
    作用:睡眠リズム(体内時計)を整える
    適応タイプ:入眠障害
    メリット:依存性が少ない、せん妄を起こしにくい、
    デメリット:入眠障害には効果不十分なことがある、効果実感までに約2~4週間と時間がかかる、翌日眠気が残ることがある、抗うつ剤(フルボキサミン)との併用NG、併用注意のお薬(抗菌剤・抗結核薬など)がある
    半減期:約2時間
  • オレキシン受容体拮抗薬

    オレキシンとは覚醒の維持に重要な物質であり、日中に増加して夜間は減少します。オレキシンの働きをブロックすることで、自然な眠りに導きます。現在、オレキシン受容体拮抗薬には「ベルソムラ」「デエビゴ」の2種類があり、どちらも入眠~覚醒まで十分な効果が期待できるので、総睡眠時間が長くなります。

    主な薬剤:スボレキサント(ベルソムラ®)、レンボレキサント(デエビゴ®)
    作用:覚醒スイッチを切る
    適応タイプ: 中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害(入眠障害にも)

    ベルソムラ®

    2014年に発売されたお薬です。ベルソムラはロゼレムより効果実感が早く、入眠障害にも効果的です。
    メリット:依存・耐性・反跳性不眠を起こしにくい、入眠障害にも効果的、せん妄を起こしにくい、処方日数制限がない
    デメリット:効果実感まで少し時間がかかる、日中に眠気が残ることがある、夢(レム睡眠)が増えて悪夢となる場合がある、用量・服用タイミングの調整が必要(食事と同時・食直後の服用はNG)
    半減期:約10時間

    デエビゴ®

    2020年に発売された新しいお薬です。入眠障害にはベルソムラよりもデエビゴの方が効果的です。
    メリット:依存・耐性・反跳性不眠を起こしにくい、入眠障害にも効果的
    デメリット:効果実感まで少し時間がかかる、日中に眠気が残ることがある、頭痛が起こる場合がある、用量・服用タイミングの調整が必要(食事と同時・食直後の服用はNG)
    半減期:約50時間

一般的に、睡眠薬は服用10分~30分後には眠気を生じてくるため、基本的には就床直前に服用するようにしましょう。(※医師から服用タイミング等の指示がある場合には、指示に従ってください。)また、アルコールを飲んだ時は睡眠薬の副作用が現れやすくなるので、一緒に服用しないことが原則です。

なお、睡眠薬は手放せなくなる薬といった怖いイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、通常、医師の指導の下、適切に使用すれば問題ありません。自己判断でお薬の量を増減したり突然服用を中止したりすることは大変危険ですのでやめましょう。
使用するお薬について、気になることや不安なことなどある場合には、医師・スタッフまでお気軽ご相談ください。

5.よくあるご質問

1)「不眠症かも……」と思ったら、まず何をしたら良いでしょうか?

まずは、「睡眠日誌」を付けてみましょう。 不眠症の診断材料には、患者さまからの睡眠に関する環境や詳しい状況の申告が欠かせません。
睡眠日誌には布団に入った時間や目が覚めた時間、実際に眠った時間、昼寝をした時間などを記入するので、ご自身の睡眠のクセに気づくことが可能です。最近はスマホアプリも配信されています。その上で、生活環境の改善を図ることも大切です。

2)どのくらい睡眠時間を取ると良いのでしょうか?

「8時間睡眠が良い」という話を聞いたことがあるかもしれません。
しかし、人によって十分とされる睡眠時間は異なります。
長い人もいれば、短い人もいます。また、気候によっても変化することもあります。
一般的には、加齢に伴い睡眠時間は短くなる傾向があります。
睡眠時間にこだわりすぎると、逆に眠ることへの不安や緊張を生むことにつながります。日中の眠気で困らなければ、十分なのです。

3)不眠症治療に使われる薬(睡眠薬)には怖いイメージがあります。治療で使用しても、不眠症が改善したら、ちゃんと薬をやめられますか?

以前使われていた睡眠薬には、確かに効果が強いだけでなく副作用も強い薬が用いられていたことがあります。しかし、最近のs睡眠薬は副作用の少ない、適正に使用すれば依存性の少ないお薬を主流としています。とはいえ、漫然と長期的に使い続けるのはよくありません。当院では不眠の背景にある原因に対処しながら、患者さまと相談して薬の減量や休薬日を作るなど、できるだけ薬を止められるよう進めていきます。

依存の心配が気になるかもしれませんが、まずは医師の指示通り、正しく服用して不眠症状を改善しましょう。自己判断での薬の減量・中断は、日中の不快症状(不安・イライラなど)や不眠症状が悪化するなどの恐れがありますので、やめましょう。

4)不眠症の予防や改善のポイントを教えてください

睡眠時間にこだわりすぎず、リラックスしながら規則正しい生活を送ると良いでしょう。「早寝早起き」をしないといけないのではなく、「早起きが早寝を導く」のです。
また、日中に太陽の光を浴びることで体内時計が調節されます。日中に適度な運動をしたり、寝る前にリラックスできることをしたりして、ストレス解消に努めることも大切です。快眠するためには寝酒習慣も避け、眠りやすい寝室環境を作りましょう。

5)市販の睡眠薬も不眠症に効果があるのでしょうか?

市販されている睡眠薬は、不眠症患者さまを対象とした長期的な臨床試験を行って、安全性や治療効果を確認しているわけではありません。注意書きにも原則「一時的な不眠に使用すること」「不眠症の診断を受けた人は使用しないこと」と記載があります。
不眠症となる原因は、個人差があります。不眠が長引いて日中に影響を及ぼしている場合には、市販の睡眠薬で対処するのではなく、まずはかかりつけ医などに相談すると良いでしょう。

院長からひと言

不眠症に悩んでいる方は多くいらっしゃいますが、まずはご自身で不眠になってしまう原因を考えてみてください。

たとえば「遅い時間までスマートフォンやパソコン、テレビの画面を見ている」「遅い時間に飲酒をする」といった行動は、睡眠の妨げになります。 また、年齢が上がってくると日中の運動量が減ったり眠りが浅くなったりして、睡眠時間は一般的に短くなっていくものです。

「すぐに眠れないから睡眠薬がほしい」「ずっと薬を飲まないとだめ」と必要以上に思い込んでしまっている場合はよくあります。ですから当院では、「睡眠日誌」を記入していただき、不眠が実際にあるのか、なぜ不眠になっているのかを考えていただくようにしています。

安易に薬を飲むと、依存性のある薬は特に減量や中止が難しくなることがよくあります。当院でも不眠に対する薬を処方することはありますが、依存性や耐性、認知力への影響などがあると言われている薬は基本的に処方しません。

まずはご自身が睡眠するまでの環境づくりを見直してみましょう。その上で、それでもお困りの場合には当院にご相談ください。

冠攣縮性狭心症

この記事を書いた人

いのまたクリニック 院長 猪又雅彦

日本内科学会 日本循環器学会
日本心臓病学会 日本睡眠学会

【関わる全ての人を笑顔にすることが私たちの使命です。】

1.冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)とは

冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)は、冠動脈がけいれんして収縮することにより、強い胸の痛みや圧迫感などの発作が起こる病気です。
就寝時や安静にしている時に発作が起こることから「安静時狭心症」とも言われています。

冠攣縮性狭心症の発作のほとんどは一時的なもので、時間とともに痛みが治まります。
発作の時以外には特別な自覚症状がないことから、つい様子を見てしまいがちですが、発作時のけいれんが長く続くと心筋梗塞を引き起こす可能性もあるため、早期のうちに発見し、治療に繋げていくことが大切です。

労作性狭心症(ろうさせいきょうしんしょう)との違い

狭心症は、心臓に酸素や栄養を送っている冠動脈の血流が悪化し、一時的に心臓が酸欠状態になってしまう病気で、「労作性狭心症(ろうさせいきょうしんしょう)」と「冠攣縮性狭心症」の大きく二つのタイプがあります。

労作性狭心症は、冠動脈の動脈硬化が原因で発症する狭心症で、運動(=労作)時に発作が起こるのが特徴です。動脈硬化が進むと、血管の内側の壁には「プラーク」と呼ばれる脂肪やコレステロールなどが溜まるようになり、血管が狭窄(きょうさく:内部が細く狭くなる)します。
血管にこのような狭窄箇所があると、運動などで一気にたくさんの酸素が必要になった時に、冠動脈からの供給が追い付かなくなり、一時的に心臓の血液が不足して(虚血:きょけつ)、胸の痛みが起こります。

一方、冠攣縮性狭心症は、冠動がけいれんし、血管が収縮することで起こる狭心症です。
冠動脈のけいれんは「冠攣縮(かんれんしゅく)」もしくは「スパズム」と呼ばれます。何らかの理由で冠攣縮が起きると、血管が縮んで一時的に狭窄状態に陥るため、心臓に送られる血液が不足して痛みが起こります。
冠攣縮は日中起こる場合もありますが、明け方~早朝は、特に交感神経が緊張して血管が収縮しやすくなるため、睡眠中に発作が起こるケースが多いのが特徴です。
安静時に起こる発作の中でも、冠動脈の狭窄が原因ではなく、冠攣縮が引き金になって発作が起こる狭心症は、「異形狭心症(いけいきょうしんしょう)」と呼ばれることもあります。

(表)労作性狭心症と冠攣縮性狭心症の発作の比較
労作性狭心症については「狭心症」のページもご覧ください。

冠攣縮性狭心症になりやすい人は?

労作性狭心症は欧米人の発症率が高いのに対して、冠攣縮性狭心症は日本人に多く見られます。その発症数は欧米人の約3倍に上り、狭心症発作の6割が、冠攣縮に関連して起こるとも言われています。

また、女性よりも男性に多く発症し、年齢が上がるにつれて患者数も増加します。
女性の場合は、女性ホルモンが減退する閉経後(50歳以降~)に発症が増える傾向があります。
その他、発症には毎日の生活習慣との関わりも深く、喫煙や飲酒の習慣がある方、糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病をお持ちの方、日常的に強いストレスにさらされている方なども発症のリスクが高くなることが分かっています。

2.冠攣縮性狭心症の症状

冠攣縮性狭心症の症状は、発作時の胸の痛みや圧迫感などで、労作性狭心症と大きな違いはありません。締め付けられるような痛みが徐々に強くなり、冷や汗や息苦しさを伴うこともあります。 また、奥歯やあご、肩など、胸以外に強い痛みが出る「関連痛」もしくは「放散痛」と言われる症状が出ることがあるのも大きな特徴です。

発作は、交感神経が緊張しやすい深夜~早朝にかけて起こることが多いですが、飲酒や喫煙、過呼吸、身体が急に冷えた(ヒートショック)、などをきっかけに、発作が誘発されることもあります。
頻繁に起こる場合もあれば、しばらく期間が空く場合もあり、発作の頻度には個人差があります。
発作が起こると強い痛みが数分~10分程度続きますが、冠攣縮が治まると、心臓の血流も改善されて正常になるため、発作の痛みも消失します。

冠攣縮性狭心症の発症メカニズム
(図)冠攣縮性狭心症の発症メカニズム

3.冠攣縮性狭心症の原因

労作性狭心症のように動脈硬化による狭窄がなく、一見、正常に見える冠動脈がなぜけいれんを起こすのかは、まだ正確に解明されていませんが、加齢などにより、冠動脈の内壁の機能が低下する「内皮障害」が関係していると考えられています。

発作を起こすおもな要因(危険因子)には、喫煙や飲酒、脂質や糖質の代謝異常、ストレスなどが挙げられますが、中でも、血管の壁を直接傷付けるうえ、冠攣縮発作を誘発してしまうタバコは、最大のリスク要因です。

また、冠攣縮性狭心症の患者さまには、日常的にお酒をたくさん飲まれる方が多く、脂質異常症や糖尿病などの生活習慣病をお持ちの方が多いのも特徴です。
さらに、精神的なストレスが、交感神経を緊張させ、冠攣縮を引き起こすこともあります。

結局、これらの要因は、どれも動脈硬化を進行させるものでもあることから、冠攣縮性狭心症も、労作性狭心症と同じように、動脈硬化を進行させないための対策が大切になります。

4.冠攣縮性狭心症のおもな検査

冠攣縮性狭心症は、労作性狭心症と違い、運動では発作が誘発されず、発作の起こり方も一定でないため、診断が難しいケースも少なくありません。
問診時には、聴診で心音などを確認するとともに詳しい症状をお伺いして、冠攣縮性狭心症が疑われる場合には以下のような検査を行います。

ホルター心電図

心電図で心臓の状態を24時間記録する検査です。 冠攣縮性狭心症は、発作時以外は正常であることが多く、通常の心電図だけでは確認できないため、24時間連続して記録するホルター心電図を行います。 検査中は、24時間、小型の検査装置を体に装着していただきますが、外来で行うことが可能ですので、基本的にいつも通りの生活を送っていただくことができます。 検査中の入浴はできませんが、装置が濡れないように注意していただければシャワーは可能です。

カテーテル検査(冠動脈造影検査)

脚の付け根や手首などから「カテーテル」という細い管を入れて心臓まで運び、直接造影剤を注入してレントゲン撮影を行う検査です。
ホルター心電図を行っても、検査の間に必ずしも発作が起こるとは限らないため、冠攣縮性狭心症が疑われる場合にはカテーテル検査時に「冠攣縮誘発試験」も合わせて行います。
冠攣縮誘発試験は、冠動脈内に攣縮を誘発するための薬剤(アセチルコリンまたはエルゴノビン)を注入し、冠動脈の変化と発作の症状が出るかを確認します。
カテーテル検査は、入院して受けていただく必要がありますので、当院では、患者さまにご相談の上、提携の医療機関を紹介しております。
(提携病院:名古屋市立大学医学部附属東部医療センター、名古屋ハートセンター、名古屋市立大学病院、日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院など)

5.冠攣縮性狭心症の治療

冠動脈の狭窄が軽度な冠攣縮性狭心症の場合は、薬物療法を中心に治療を行います。 治療薬には、「発作が起こった時に使用する薬」と、「発作を予防する薬」の2つのタイプがあります。

発作時に使用する薬

発作時には、「ニトログリセリン(通称:ニトロ)」を使用します。
ニトログリセリンは、冠動脈を広げて血流を改善する「硝酸(しょうさん)薬」と言われる薬剤です。
舌の下に入れて溶かす「舌下錠(ぜっかじょう)」やスプレーのタイプがあり、発作時の痛みを素早く鎮める効果があります。内服ではなく、直接口の中で吸収させることで、素早い効果が期待できるのがメリットですが、あくまでも緊急的に使う薬剤のため、効果は30分程度で消失します。
※なお、ニトログリセリンが効きにくい方には「硝酸イソソルビド(舌下錠)」を使用する場合もあります。

発作を予防する薬

発作の時以外に、継続して使用していただく薬剤です。
心臓で使用される酸素量をコントロールし、需要と供給のバランスをとる薬剤を日常的に使用していただくことで、発作を未然に防ぎ、患者さまのQOL(生活の質)を高めることが可能です。
冠攣縮性狭心症でよく使われる薬剤には以下のようなものがあります。

  • カルシウム拮抗薬 血管にある細胞内のカルシウム濃度が上がると攣縮が起こりやすくなるため、細胞内にカルシウムを取り込まないようにする。
  • 持続性硝酸薬 冠動脈や全身の血管(静脈、動脈)を広げ、心臓の負担を和らげる。
  • ニコランジル 冠動脈や全身の血管(静脈、動脈)を広げ、心臓の負担を和らげる。心筋の保護作用もあり。
  • 抗血小板薬 血液をサラサラにして流れを良くする。

なお、冠攣縮性狭心症でも、動脈硬化の進行が見られ、冠動脈が重度の狭窄を起こしている場合には、薬物療法だけでは改善が難しく、狭窄箇所を広げる「カテーテル治療」や外科手術が必要になる場合もあります。外科的な治療が必要な場合には、提携の医療機関をご紹介させていただきます。

6.生活上の注意

冠攣縮性狭心症も、労作性狭心症と同じく、動脈硬化への対策が必要になります。
動脈硬化は、自然に治ることはない上、放置していると少しずつ進行してしまうため、これ以上進行させないということが重要です。発作のリスクを減らすためにも、以下のような点に気を付けましょう。

生活習慣病の治療の継続

すでに動脈硬化による高血圧や糖尿病、脂質異常症などの治療を行っている場合には、自己判断でお薬を止めたりせず、病気のコントロールをしておきましょう。

日常生活の管理

バランスの良い食事や適度な運動など、規則正しい生活を心掛けて適正な体重を保ちましょう。
また、精神的なストレスが過呼吸を引き起こし、発作につながることもあるため、睡眠はしっかり確保し、日頃から自分に合った方法でストレスを解消するように心がけましょう。

禁煙、禁酒(節酒)

タバコや飲酒は、動脈硬化を進行させる上、直接的に冠攣縮を引き起こすきっかけになります。禁煙を行い、お酒も控えめにしましょう。

ヒートショックの予防

急激に体が冷えることで冠攣縮が起こり、発作が誘発されることがあります。特に冬場など、急な温度差が生じるような環境は避けるように注意しましょう。

狭心症の予防についてはこちらのページでも紹介しております。

7.よくある質問

1)発作時に何度もニトロを使用していると効かなくなりませんか?

長時間作用型の硝酸薬は、長期間の使用で耐性が付くため、休薬期間が必要ですが、発作時に使用する短時間型のニトロではほとんど 耐性は付かないと考えられています。 もし仮に耐性が発生したとしても、しばらく時間を空ければ消失してしまいますので、発作時には我慢せずに、速やかに使用するようにしてください。 特に冠攣縮性狭心症の場合、運動などのきっかけがなくても起こることがあります。ニトロは日常的に携帯しておくようにしましょう。

2)安静時に発作のような胸の痛みが出ましたが、冠攣縮性狭心症でしょうか?

安静時に起こる発作には、冠攣縮性狭心症のほかにも、「急性冠症候群」と呼ばれる重症の「不安定狭心症(労作性狭心症が悪化し、安静時にも発作が出るようになったもの)」や「心筋梗塞」などの可能性もあり注意が必要です。

通常、動脈硬化は徐々に進行するので、症状も段階を追って悪化しますが、まれに急速に冠動脈の狭窄が進行し、運動時の発作がないまま、安静時に狭心症発作が出る場合もあります。

初めて発作が起こった方や、痛みがあってもまだ受診していない方は、早期に一度、詳しい検査を受けられることをおすすめします。
すでに狭心症と診断され、治療を行っているのであれば、痛みが起こった時にはニトロをすぐに使用してください。強い痛みが長く続き、ニトロを使っても症状が治まらない場合には、心筋梗塞に移行している可能性があり、命に関わりますので、至急、救急搬送が必要になります。

8.院長からひと言

冠攣縮性狭心症は日本人には比較的多い疾患です。症状は安静時、特に早朝に出ることが多いですが、発作時の症状は労作性狭心症と似通っており、労作性狭心症との判別が難しいことがあります。起こりやすい時間帯や、持続時間、またホルター心電図などの検査で鑑別をしていきますが、冠攣縮性狭心症が疑われる場合はカテーテル検査で攣縮の誘発試験を行うと診断がつきます。症状は辛いものですが、診断がつけば対処法はあります。胸の症状が短時間で治るからと放置せずに、気になることがあれば早めに受診することを勧めます。

帯状疱疹

1.帯状疱疹(たいじょうほうしん)とは?

この記事を書いた人

いのまたクリニック 院長 猪又雅彦

日本内科学会 日本循環器学会
日本心臓病学会 日本睡眠学会

【関わる全ての人を笑顔にすることが私たちの使命です。】

帯状疱疹は、水ぼうそうの原因菌「水痘・帯状疱疹ウイルス」が再活性化することによって発症する皮膚疾患です。
子どもの頃にかゆみを伴う小さな発疹(水ぶくれ)ができる「水ぼうそう」に罹った経験がある人も多いのではないでしょうか。しかし、水ぼうそうが治っても原因菌の「水痘・帯状疱疹ウイルス」は、体の中から出ていかずに神経に潜んでいます。

帯状疱疹を発症する人の年齢層は60代を中心として、50代~70代の中高年に多くみられます。ただし、40代以下の発症は30%程度存在し、小中学生でも発症することがあります。

帯状疱疹を発症する可能性がある人

帯状疱疹は、既に体内に「水痘・帯状疱疹ウイルス」を持っている人が発症する病気です。
つまり、過去に「水ぼうそうになったことがある人」なら、どなたでも発症の可能性があります。
国立感染症研究所によると、85歳以上の約半数が帯状疱疹を経験しており、80歳までに推定で3人に1人が経験すると報告しています*1。

*1(参考)帯状疱疹ワクチン ファクトシート平成 29(2017)年2月10日 P.2|国立感染症研究所
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000185900.pdf

2. 帯状疱疹の症状と合併症・後遺症

帯状疱疹は、名前の通り、神経に沿って帯状に皮膚症状が現れます。

(図)帯状疱疹

帯状疱疹の症状

帯状疱疹でみられる症状には、次のような特徴があります。

  • ピリピリ・チクチク・針で刺されたような痛み(神経痛)
    ※「皮膚の違和感」「しびれ」「虫刺されのようなかゆみ」から「焼けるような痛み」まで、痛みの強さには個人差がある。
  • 赤い発疹
  • 症状が体の片側のみ現れる

なお、赤い発疹が現れる数日~1週間前あたりから、皮膚の違和感・ピリピリ感を自覚することがあります。

皮膚症状の現れやすい部位

帯状疱疹による皮膚症状は、特に上肢(腕・手)から胸背部(胸周り)に多く、目の周り(顔面)にもよくみられるなど、上半身への出現が半数以上です。
ただし、皮膚症状が下半身に出現することもあります。

(図)帯状疱疹による皮膚症状が出やすい部位

帯状疱疹による皮膚の経過

帯状疱疹による皮膚症状は、次のような経過を辿ります。

  1. 赤い発疹
  2. 水ぶくれ(粟粒くらい~小豆大くらいの大きさ・真ん中にくぼみがある)
  3. 水ぶくれが破れ、ただれる
  4. ただれた部分が「かさぶた」になる ※適切な治療を受けていれば、赤い発疹が現れてから1週間~10日程度
  5. かさぶたが自然にはがれる

    ※発症から2週間~1か月程度で治る。
    かさぶたを無理に剥がすと、痕が残る原因となるため、やめましょう。

帯状疱疹の合併症

赤い発疹とともに、軽い頭痛や発熱が現れることがあります。
また、目の近くに帯状疱疹が現れると、目にも影響が及ぶこともあります。
視力の低下・充血・異物感などが現れる「角膜炎」や、目の充血・まぶたの腫れ、涙が増えるなどの「結膜炎」を引き起こす恐れがあります。
まれに、顔面神経の麻痺が起こり、突然顔が動かしづらくなる病気「ハント症候群」を引き起こします。ハント症候群では、顔面神経からの枝分かれが影響して、耳鳴りや難聴、味覚障害などの症状を伴うことがあります。

帯状疱疹の後遺症

帯状疱疹では、皮膚症状が治れば痛みも消えます。
しかし、急性期の炎症が強く、神経に深い損傷を与えてしまった場合、ピリピリ・チクチクする神経痛が皮膚症状の治癒後も続いてしまう「帯状疱疹後神経痛」となることがあります。

帯状疱疹後神経痛に移行してしまった際には、鎮痛薬などできるだけ痛みを軽くする対症療法を行います。長引く痛みでうつ状態になる場合もあるので、その際には抗うつ薬を用います。
なお、帯状疱疹後神経痛は、皮膚症状が重症だったり眠れないほどの強い痛みがあったりするときや60歳以上の高齢者に起こりやすいので、早めの対処がポイントです。

3.帯状疱疹の原因

帯状疱疹の原因は、「水痘・帯状疱疹ウイルス」です。
水痘・帯状疱疹ウイルスは、初めて感染すると「水ぼうそう」として発症します。
水ぼうそうは主に10歳以下のお子さんにみられる感染症です。2014年より乳幼児に対するみずぼうそうの予防接種が定期接種化(1歳代で2回接種)されたので、近年の発生数は大幅に減少していますが、日本人の多くがこのウイルスの抗体を保有しています*2。

*2(参考):年齢/年齢群別の水痘抗体保有状況2017年|国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/8132-varicella-yosoku-serum2017.html

しかし、このウイルスは厄介なことに水ぼうそうが治った後も体内からいなくならず、体の中の神経節に潜んでいるのです(潜伏感染)。
普段は免疫で抑えているので症状は現れませんが、何十年と潜み続け、何かのきっかけでウイルスに対する免疫力が低下すると、潜伏していたウイルスが再び活性化して発症します。

この免疫力の低下を引き起こす発症のきっかけには、次のようなものがあります。

  • 加齢(50歳以上)
  • 疲労・ストレス
  • 重症な感染症や悪性腫瘍などの病気
  • 免疫抑制剤・抗がん剤の使用
  • 過度な紫外線暴露

4.帯状疱疹の検査・診断

帯状疱疹が疑われる場合、次のような診察・検査から診断します。

  • 問診・臨床症状

    問診では「過去に水ぼうそうになったことがあるか?」という点をお伺いします。

    また、帯状疱疹特有の症状(神経に沿った痛み・発疹)や発症に繋がるような要因(加齢・ストレスなどによる免疫力の低下など)について確認させていただきます。

  • 血液検査や病理検査

    単純ヘルペスなど似たような症状が現れる疾患との鑑別のため、血液検査や病理検査を行うことがあります。

5.帯状疱疹の治療

帯状疱疹の治療では、薬物療法を行います。
抗ヘルペスウイルス薬は、発症初期ほど効果が出やすいお薬なので、痛みや発疹がみられたら早めに受診してください。
ただし、効果が現れるまで2日程度時間がかかるお薬でもあります。
効かないからと、自己判断で中止したり倍量を服用したりしないようにしましょう。

  • 抗ヘルペスウイルス薬

    ウイルスの増殖を抑えるお薬です。炎症を抑えて早く治す効果のほか、合併症・後遺症の発生を抑える効果も期待できます。
    アメナリーフ®(錠剤)・アシクロビル®(錠剤)・バラシクロビル®(錠剤・顆粒)など
    ※発疹が現れてから、3日以内の服用開始が望ましい(遅くとも5日以内)。

  • 消炎鎮痛剤

    帯状疱疹による痛みを抑えるお薬です。
    通常、アセトアミノフェンや非ステロイド性鎮痛薬を使用します。
    重症例では、ステロイドを使用することがあります。
    帯状疱疹後神経痛では、トリプタノール錠®、プレガバリン®・リリカ®などを使用します。

ほかにも、痛みの緩和として「神経ブロック注射」による治療もあります。神経や神経の周りに局所麻酔薬を注射して、痛みの伝わる経路をブロックします。
帯状疱疹による強い痛みは、「帯状疱疹後神経痛」へ移行する危険分子とされているため、痛みを我慢せず、早めに治療で緩和したほうが、後遺症リスクを下げることに繋がります*3。
※当院では行っておりません。

*3(参考)帯状疱疹後神経痛予防のための神経ブロックの有効性|日本ペインクリニック学会
https://www.jspc.gr.jp/mass/mass_clin-res01.html

帯状疱疹に対する治療中の注意点

帯状疱疹の治療にあたり、気を付けたい5つのポイントがあります。

  • 体だけでなく、精神的にもリラックスして、しっかり安静する
    十分な睡眠やバランスの良い食事を摂って、ゆったり過ごす。
  • 痛みを和らげるためには、温めた方が良い
    痛いからと言って冷やすことは、痛みに繋がります。熱すぎないお風呂に入って、ゆっくり温めると、痛みの軽減が期待できます(ただし、入浴は最後にする)。
  • 水ぶくれを破かない 無理に水ぶくれを破くと、細菌感染を起こす恐れがあるのでやめましょう。
    また、水ぶくれの液体の中には、水痘・帯状疱疹ウイルスが含まれているので、水ぼうそうに罹ったことがない人にはうつる可能性があります。
  • 乳幼児・妊婦・免疫不全の人との接触は避ける
    水ぼうそうに罹ったことがない人以外に、妊婦さん・赤ちゃん(特に早産児・低出生体重児)、免疫不全の方などで免疫力が下がっている人も、発疹を触ったり感染者と同じ部屋にいたりするとうつり(空気感染)、重症化する可能性があります。

6.帯状疱疹の予防

帯状疱疹は、免疫力の低下を防ぐための体調管理以外に、ワクチン接種で予防することが可能です。

ワクチン接種(予防接種)

2016年より50歳以上の方に、水痘・帯状疱疹ワクチンが任意接種(自費)で行えるようになっています。現在、帯状疱疹のワクチンには「生ワクチン」「不活化ワクチン」の2種類があります。
当院では、帯状疱疹ワクチン2種類とも取り扱っていますので、希望の方はご予約ください。負担は大きくなりますが、高い効果が期待できる不活化ワクチン(シングリックス)を推奨しています。なお、名古屋市に住民登録のある50歳以上の方には帯状疱疹ワクチンの費用助成がありますので、ご利用ください。

  • 水痘ワクチン(生ワクチン:ビゲン)

    弱毒化された生きたウイルスが含まれる。従来から小児に使用している水ぼうそうワクチンだが、2016年から帯状疱疹予防としても認可された。
    【接種回数】1回
    【接種方法】皮下接種
    【効果の持続期間】約5年*4

    *4(参考)帯状疱疹ワクチンの使用に関する推奨事項に関する最新情報|CDC(アメリカ疾病予防管理センター)
    https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6333a3.htm

  • シングリックス(不活化ワクチン)

    帯状疱疹予防に開発された新しいワクチン。2017年にアメリカのFDA(米国食品医薬品局)で認可され、日本では2020年に発売された。感染する能力を失わせたウイルス(不活化)を原材料としており、生ワクチンよりも生み出される免疫力が弱いので2回接種が必要となる。そのため、生ワクチン接種と比べて高額となるが、効果は高いとされている。
    ※アメリカの調査によると、2回接種した50~69歳までの97%、70歳以上の91%に帯状疱疹の発症予防の効果があったと報告されている*5。

    *5(参考)帯状疱疹予防接種|CDC
    https://www.cdc.gov/vaccines/vpd/shingles/public/shingrix/index.html?CDC_AA_refVal=https%3A%2F%2Fwww.cdc.gov%2Fvaccines%2Fvpd%2Fshingles%2Fpublic%2Findex.html

    【接種回数】2回
    【接種方法】筋肉内注射
    【効果の持続期間】9年(まで確認済)*6

    *6(参考)高齢者における9年目までの補助水痘帯状疱疹ウイルスサブユニットワクチンに対する免疫応答の持続性|Schwarz TF, et al.: Hum Vaccin Immunother., Published online: 21 Mar 2018
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6037441/

名古屋市では全国的にも数少ない「帯状疱疹予防接種の費用助成」が行われています。
名古屋市に住民登録のある満50歳以上の方が対象となります。
当院は「名古屋市の指定医療機関」として登録されていますので、ご希望の方は「助成利用」とお申し出の上、ご予約ください。

<帯状疱疹 予防接種費用(自費)>

水痘ワクチン(生ワクチン)
8,800円
シングリックス(不活化ワクチン)
21,600円/回 (2回接種で計43,200円)

<名古屋市費用助成を利用した場合の自己負担額>

初めて帯状疱疹ワクチンを打つ方に限ります。
水痘ワクチン(生ワクチン)
4,200円
シングリックス(不活化ワクチン)
10,800円/回 (2回接種で計21,600円)
  ※2回目接種可能期間は、1回目接種の2か月後~6か月後の前日まで。期間内に接種できなかった場合には、費用助成の対象外となります。

免疫力低下を防ぐための体調管理

加齢に伴い、正常に働く免疫細胞が減ったり免疫細胞自体の機能低下が起こったりするため、年を重ねるにつれて免疫力が落ちるのは、ある程度致し方ありません。
とはいえ、免疫力の低下が帯状疱疹の発症のきっかけとなるため、日ごろから体調を整えておくことが大切です。
ストレス発散・適度な運動・栄養バランスを考えた食事・十分な睡眠など、毎日のちょっとした心がけが発症予防につながります。

7.よくある質問

1)帯状疱疹のウイルスは、いつまで注意すれば良いですか?

水痘・帯状疱疹ウイルスは、水ぶくれの中の液体に含まれています。
そのため、全ての水ぶくれがかさぶたになるまで、他人への感染に注意が必要です。

2)帯状疱疹は再発しますか?

帯状疱疹になった人は抗体を保有することになるので、通常は抗体などの免疫機能が働き、残ったウイルスの再活性化(再発)を抑えられます。
しかし、加齢・疲労などにより免疫力が低下すると、中には再発する人もいます。
 宮崎県で行われている調査によると、再発率は6.4%で60歳以上の女性に多くみられたと報告されています*7。

*7(参考)帯状疱疹の宮崎スタディ|モダンメディア66巻9号2020
https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/1-14.pdf

3)帯状疱疹の予防接種と他のワクチンとの接種間隔を教えてください。

帯状疱疹のワクチンの種類によって、他のワクチンとの接種間隔は異なります*8。

*8(参考)ワクチンの接種間隔の規定変更に関するお知らせ|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou03/rota_index_00003.html

<帯状疱疹ワクチンが生ワクチン(ビゲン)の場合>

新型コロナウイルスワクチン
→同時接種不可・どちらか接種2週間後から可能*9

*9(参考)新型コロナワクチンQ&A|厚生労働省
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0037.html

不活化ワクチン(インフルエンザワクチン・肺炎球菌ワクチンなど)
→接種間隔の制限なし
他の生ワクチン(MR麻疹・風疹ワクチンなど)
→27日以上間隔を空ける

<帯状疱疹ワクチンが不活化ワクチン(シングリックス)の場合>

シングリックスは2回接種が必要です。
2回目は、通常1回目接種から2か月後に行います。
※何かの事情で2か月を超えてしまう場合でも、1回目から6か月以内に接種が必要。
新型コロナウイルスワクチン
→同時接種不可・どちらか接種2週間後から可能
不活化ワクチン(インフルエンザワクチン・肺炎球菌ワクチンなど)
→接種間隔の制限なし
他の生ワクチン(MR麻疹・風疹ワクチンなど)
→接種間隔の制限なし

4)水ぼうそうの罹患歴や水ぼうそうワクチン接種歴が曖昧の場合、「水ぼうそうワクチン接種」をした方がよいのでしょうか?

はい。過去の罹患歴や接種歴が曖昧な場合にも、ワクチン接種が推奨されます。
水ぼうそうは予防接種が普及したことにより、昔と比べて発症者が減っていますが、完全にこの世の中からなくなった訳ではありません。免疫を持っていなければ、誰でも感染する可能性はあります。患者さんが減っている今こそ、「水ぼうそうの免疫を持つ = 予防のための水ぼうそうワクチン接種」が重要となります。
特に成人の水ぼうそう感染は重症化しやすいことから、ワクチンによる予防が望まれます。

8.院長からひと言

皆さんの身近にも、帯状疱疹にかかったことがある、という方は多いことでしょう。特に高齢者が罹患した場合など重症になってしまい、後遺症に長く苦しむ方もいらっしゃいます。
「痛みが出現して数日後になってようやく発疹が出てくる」といったように、発疹が出てくるまでに時間がかかることもありますが、まずは疑いを持って早く受診することが、早期の治療につながります。
予防のためのワクチン、特に不活化された「シングリックス」は効果が期待されるため、基礎疾患のある方はもちろん、そうでない方にもおすすめしています。

肺塞栓症

1.肺塞栓症(はいそくせんしょう)とは?

この記事を書いた人

いのまたクリニック 院長 猪又雅彦

日本内科学会 日本循環器学会
日本心臓病学会 日本睡眠学会

【関わる全ての人を笑顔にすることが私たちの使命です。】

肺塞栓症(肺血栓塞栓症)は、主に足の静脈にできた血のかたまり(血栓:けっせん)が血流に乗って流れ、肺動脈(心臓から肺に血液を送る動脈)で詰まることによって生じる肺循環障害です。
主な原因となる血栓は、「深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)」であり、入院中や飛行機の搭乗など長時間同じ姿勢でいることにより血栓ができるため「エコノミークラス症候群」「旅行者血栓症」とも呼ばれています。

(図)肺塞栓症イメージ

ガイドライン*1によると、2006年に行われた疫学調査では静脈血栓塞栓症(肺血栓塞栓症*2+深部静脈栓症)の発症数は10年間で2.25倍増加し、推定で100万人あたり62人と報告されており、食生活の欧米化などにより現在も引き続き増加傾向にあります。
日本人患者さんの内訳をみてみると、男性よりも女性に多く発症がみられ、ピークは60歳代~70歳代であると報告されています。

*1(参考)肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版) P.9|日本循環器学会
https://j-circ.or.jp/old/guideline/pdf/JCS2017_ito_h.pdf
*2(参考)肺血栓塞栓症:血栓が原因の肺塞栓症のこと

肺塞栓症は循環器の3大救急疾患*3の一つです。発症すると突然の息切れ・呼吸困難・胸痛・失神といった症状が現れ、大きい血栓によって肺動脈が塞がれた場合には死に至ることもある危険な病気です。

*3(参考)循環器の3大救急疾患:肺塞栓症のほかに、急性心筋梗塞・大動脈瘤/大動脈解離がある。

そのため、急な息切れ・胸の痛み・呼吸困難などの症状が現れた場合には、救急車を利用するなど速やかに医療機関を受診しましょう。

肺塞栓症では、新たな肺塞栓症を起こすことを予防するために、軽症の場合でも基本的には入院加療が必要となります。退院後も血栓の再発予防のため、定期的な経過観察が必要となります。
当院では、肺塞栓症の急性期後のフォロー治療を行っています。

肺塞栓症の症状

肺塞栓症の症状は、血栓の大きさ、塞がった肺動脈が及ぼす影響範囲、患者さんのそれまでの健康状態などによって、無症状~重症まで様々です。
肺塞栓症を発症すると、以下のような症状が現れます。

  • 突然の息切れ・呼吸困難
    歩いていて、階段・上り坂の途中で息が切れ、休まないと動けなくなるほどの息苦しさを突然感じます。
  • 胸や背中の痛み、胸部圧迫感・不快感
    肺塞栓により一部の肺組織が壊死する「肺梗塞(はいこうそく)」を起こすと、息を吸うときに鋭く痛みます。咳や血が混じった痰(たん)が出ることもあります。
  • めまい・ふらつき・動悸
    血圧低下により、動悸と共にふらつき・めまいなど起こることがあります。
  • 失神・ショック状態
    血圧の低下や神経反射の影響で、意識障害・臓器の機能障害を起こします。
  • 心停止
    大きな血栓が肺動脈に詰まると、場合によって突然死することもあります。

特に長時間座った後や手術後の「胸の痛み・息切れ・片側の足のむくみ」は、肺塞栓症のサインとして、よくみられます。早期発見のために、思い当たる場合には速やかに医療機関を受診することをおすすめします。

肺塞栓症の前兆

実は肺塞栓症患者さんのうち、約半数の方に発症の前兆として、「下肢(脚:骨盤~足首)のむくみ・痛み・皮膚の色の変化(赤・紫色)・脚の太さに左右差がある」といった深部静脈血栓症の症状がみられています。特に片脚のみに症状がみられる場合、深部静脈血栓症の可能性が高いので、すぐに医療機関を受診してください。

2.肺塞栓症の原因

肺塞栓症の直接原因は「血栓が肺動脈で詰まること」です。
その血栓のほとんどは下腹部や膝の中心を走る深部静脈にできた血栓(深部静脈血栓症)からです。

図)深部静脈血栓症イメージ

血栓ができる要因

静脈に血栓ができる要因には、次の3つが関係しています。

  • 血管が傷つく
    手術などで血管の中に点滴や輸血の管を長期間入れて置いたとき、骨折などで血管内皮が障害を受けた場合などに血栓ができやすくなります。
  • 静脈内の血液の流れが悪く、停滞している
    手術後のベッド上に長期間安静にしているとき、麻痺で足が動かなくなったり飛行機・車・新幹線に乗って長時間椅子に座ったりするなど、長時間足を動かすことができないと、脚の静脈の血流が悪くなり、血栓ができやすくなります。また、妊娠中や大きな子宮筋腫・卵巣嚢腫などによって、腹部の大きな静脈が圧迫されることによっても血栓の発生リスクが高くなります。
  • 血液が固まりやすい体質を持っている
    アンチトロンビン欠乏症、プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症など生まれつき血液を固める機能に障害がある方がいます。また、抗リン脂質抗体症候群、悪性腫瘍などの病気によって後天的に血液が固まりやすい状態となる場合もあります。

肺動脈を閉塞させる物質

肺動脈が詰まる原因のほとんどは「血栓」ですが、ほかにも以下のような物質も詰まる原因となることがあります。

  • 脂肪
    長い骨を折った時など、骨髄から漏れ出すことがあります。
  • 羊水
    骨盤部内の静脈の中へ押し出されることがあります。
  • がん細胞
    腫瘍から分離して血流に乗って、腫瘍塞栓を形成することがあります。
  • 空気の泡
    太い静脈に留置したカテーテルが何かの拍子に解放された場合や、静脈に対する手術中、潜水時に空気によって詰まることがあります。
  • 感染物質
    血栓形成・感染を伴う静脈の炎症(敗血症性血栓性静脈炎)などが原因となり、塞栓を形成してしまうことがあります。

3.深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群・旅行者血栓症)とは?

肺塞栓の主な原因である血栓は、足の深部静脈に血栓ができる「深部静脈血栓症」によるものです。
足の筋肉は「第二の心臓」とも呼ばれ、人間は足を動かすことで、足の静脈の流れを促進しています。しかし、長い間足の筋肉を動かさないでいると、静脈内の血液が固まりやすくなるため、血栓ができます。

深部静脈血栓症を起こしやすくする危険因子

深部静脈血栓症の2大発生要因は「血流が停滞する」「水分が十分に取れない」ことです。
以下に該当する方や場面では、深部静脈血栓症を発症しやすいので注意が必要です。

  • 妊娠中・出産直後の方
  • 高齢者
  • 肥満
  • 生活習慣病(糖尿病・高血圧・脂質異常症)の持病がある
  • 大きな子宮筋腫・卵巣嚢腫などの持病がある
  • 過去に深部静脈血栓症、心筋梗塞、脳梗塞などを起こしたことがある
  • 飛行機・新幹線・車・バスなどに長時間乗車する
  • 長時間のデスクワーク
  • 手術後や病気などで長時間ベッド上での寝たきり・安静が必要となる
  • 災害時の車中泊・避難所
  • 草むしり・畑仕事
  • 経口避妊薬を服用している
  • 脱水状態   など

血栓が流れるタイミング

足の静脈にできた血栓が流されるタイミングは、「動き出したとき」です。 立ち上がったり歩き出したりすることによって足の筋肉の収縮が起こり、大量の血液が足から心臓に戻ります。特に新しくできた血栓ほど流されやすくなります。

(図)肺塞栓症の発症のしくみ

4.肺塞栓症の検査・診断

肺塞栓症の症状が認められる場合、血中の酸素量(酸素飽和度)や血圧を確認しながら、スクリーニング(病気かどうかの選別)検査として、胸部X線検査・心電図・心エコー(心臓超音波検査)・血液検査を行います。
肺塞栓症が強く疑われるときは、緊急で心CT血管造影検査を行い、肺動脈の血栓を確認します。命の危険が迫っている可能性もあるため、迅速な検査・診断を必要とします。
※当院では、緊急で検査・治療が必要となる場合など必要に応じて、患者さまにご相談の上、提携する医療機関をご紹介しております。
(提携病院:名古屋市立大学医学部附属東部医療センター、名古屋ハートセンター、名古屋市立大学病院、日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院など)

胸部X線検査(レントゲン検査)

肺塞栓症の場合、心拡大や肺動脈中枢部の拡張がみられることが多く、約1/3は肺動脈の塞栓による肺の空気の強調(透過性亢進)を確認できます。肺梗塞を起こすと、腹水(水が溜まること)がみられます。
ただし、肺塞栓症特有の所見はなく、胸部X線検査は呼吸困難を起こす他の心肺疾患の除外に有効です。臨床症状で疑いがあれば、造影CT検査などの画像検査を行うことになります。

心電図

心電図では肺塞栓症の特有症状を確認することはできませんが、息苦しさ・胸の痛みなどの原因が心筋梗塞などの別の疾患によって引き起こされているかなど、他疾患との鑑別に有効です。
当院では体に跡が残らない「使い捨てのシールタイプ」の電極を使用しており、衛生的で痛みはありません。検査時間は5~10分程度なので、お体に負担なく検査をお受けいただけます。

心臓超音波検査(心エコー)

心臓の壁の厚さ、弁の状態、ポンプ機能など、心臓の形状を調べます。典型的な肺塞栓症では心臓の右側に負荷がかかっている所見が確認できます。

血液検査

血液が固まりやすい体質かどうか、確認します。
また、血栓の形成・溶解に関連する物質「Dダイマー」を調べ、血栓の存在を評価します。
高値の場合、追加で造影CTなど詳しい検査が必要となります。
※Dダイマー検査は外部委託となるため、結果は翌日以降となります。
そのほか、次のような検査を行うこともあります。

  • 下肢血管エコー検査

    足の静脈の形状や血流を確認して、残っている血栓(深部静脈血栓症)の有無を調べます。

  • 心CT血管造影検査

    肺塞栓症の確定診断に必要不可欠な検査で、造影剤を体内に入れてX線による断層撮影をします。肺動脈内の血栓の詰まりを確認できます。

  • 肺シンチグラフィ検査

    放射性同位元素を体内に入れて、放出される放射線を画像化することで肺の血流や換気を評価します。急性期の画像診断では主に「造影CT検査」が行われますが、造影剤アレルギーがある方、心機能・腎機能の低下例などに有用です。ただし、日本では対応している病院がとても少ないです。

5.肺塞栓症の治療法

肺塞栓症と診断されたら、残っている足の血栓が流れて新しく詰まることを予防するため、原則的に一時的な入院による治療が必要となります。患者さんの重症度・合併症・深部静脈血栓症の有無から総合的に判断して、治療法を選択します。
もともと肺は血栓を溶かす能力が高く、小さい血栓であれば自然に数週間~数か月で溶けるため、重症例以外では通常「薬で血栓が溶けるのを待つ方法(抗凝固療法)」を選択します。しかし、重症で命の危険がある場合には、積極的に血栓を溶かす強い薬を使ったり(血栓溶解療法)、手術で直接血栓を除去したり(カテーテル治療・肺動脈血栓摘除術)するなど、早急に血流を回復させるよう努めます。
なお、急性期を過ぎたら、定期的な検査による経過観察を続ける必要があります。
肺塞栓症にならないことは大事ですが、既に起こってしまった方も、継続して治療を行うことで再発を予防できます。

当院では専門病院と連携を取りながら、血栓の再発予防を目的とする「急性期後のフォロー治療および他の基礎疾患管理」を行っています。
そのため、診察の結果、肺塞栓症および肺塞栓症に対する急性期治療が必要と疑われた場合には、患者さまにご相談の上、提携する医療機関をご紹介しております。
(提携病院:東部医療センター、名古屋ハートセンター、名古屋市立大学病院、名古屋第二赤十字病院など)

内科的治療(薬で溶かす治療)

  • 抗凝固療法……治療の第一選択

    抗凝固療法は、これ以上血栓ができないように薬で血液をサラサラにする治療法です。血栓が溶けるのを待つ治療法なので、自覚症状が軽く心肺機能の障害が少ないなどCT検査で「血栓が大きくない」と確認できた場合に適応となります。

    初期治療期(1週間程度)は点滴による投与を行い、血栓が自然に溶けてきているようであれば、維持治療期(初期治療後~約3か月)は経口薬(ワーファリンなど)に切り替えます。ただし、血液が固まりやすい体質の方、がん治療中、肺高血圧(肺の血管が狭くなって肺動脈の血圧が上昇)がある方では、維持治療期以降も延長使用することがあります。

    また、これまで抗凝固療法では、点滴ならヘパリン・飲み薬はワーファリンとされていましたが、近年新しい抗凝固薬(直接作用型経口抗凝固薬)が承認されたことにより選択肢が広がっています。新しい抗凝固薬は、薬の効き具合を採血で細かくチェックしなくてよく、ワーファリンにあるような食事制限が不要です。

    メリット:抗凝固作用
    デメリット:効きすぎると出血リスク大

    <使用する薬剤>
    -ヘパリン®(静脈注射)
    診断早期に使用する、半減期が短い
    ※採血で薬の効き具合を確認しながら使用する必要がある
    -ワーファリン®(経口薬)
    納豆・クロレラ・青汁・ビタミンKを含むサプリメントは効果を弱めるため摂取NG、アルコール類は控える、抗凝固作用を得るまで数日かかる、1日1回服用
    ※採血で薬の効き具合を確認しながら使用する必要がある
       -プラザキサカプセル®(経口薬)
        胃腸障害・胸やけ・腹部不快感などの副作用が出やすい、腎臓代謝なので高度腎機能障害がある方には禁忌、1日2回服用
       -イグザレルト®(経口薬)
        肝臓代謝なので中等度以上の肝障害がある方は禁忌、1日1回服用
       -エリキュース®(経口薬)
      高齢者に使いやすい、1日2回服用
     -リクシアナ®(経口薬)
         深部静脈血栓症に対して保険適用あり、1日1回服用

  • 血栓溶解療法

    詰まった血管が広範囲に渡り、血圧低下や意識混濁などのショック状態・失神を起こした方などに対し、静脈注射にて積極的に血栓を溶かす方法です。
    血栓溶解作用が強い分、より出血を起こしやすいデメリットがあるため、慎重な投与が必要となります。

      メリット:強力な血栓溶解
      デメリット:出血リスク大、出血による合併症(採血部位からの出血~頭蓋内出血、消化管出血など)

      <使用する薬剤>
       -組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)
        ※保険適用あり
       -ウロキナーゼ(UK)など

外科的手術

症状が極めて重く、内科的な治療を行う余裕がない場合には、外科的に直接血栓を取り除きます。

  • カテーテル治療

    血栓が広範囲型で、内科的治療を行っても血流が改善しないようなケースに適応されます。
    カテーテル(細い管)を肺動脈内の血栓近くまで進めて、詰まった血栓を溶解(カテーテル血栓溶解療法)または破砕(カテーテル破砕術)することで再開通させる治療法です。

    メリット:血栓除去による症状の劇的な改善が期待できる
    デメリット:高度な技術と設備が必要なので実施できる医療機関が限られる

  • 肺動脈血栓摘除術

    血栓溶解療法が禁忌で行えない場合、ショック状態が持続している、心肺停止寸前などの重症例に適応となります。
    経皮的心肺補助装置(PCPS)や人工心肺装置を使用して、血栓を直接取り除く手術を行います。

    メリット:血栓除去による症状の劇的な改善が期待できる
    デメリット:高度な技術と設備が必要なので実施できる医療機関が限られる

下大静脈フィルター

抗凝固薬を使用していても肺塞栓が再発する、抗凝固薬が使用できない、次の発作が起こると致命的な症状となる可能性があるなどの場合に行う「予防的治療」です。

傘の骨組みのような形の網(フィルター)を腎臓の下にある下大静脈に置くことで、足の静脈に残っている血栓が流れても、フィルターで血栓を捉えて、肺まで飛ばないようにします。
フィルターには永久留置と非永久留置の2タイプがありますが、最近は長期留置による合併症の予防の観点から、取り出せる非永久留置タイプを用いることが多くなっています。

補助的治療

  • 酸素吸入療法
    肺塞栓症では、肺動脈が詰まっていることで体の中に酸素が十分取り込まれない状況に陥ります。急性期では酸素を補うための「酸素吸入療法」を行います。
  • 強心剤・利尿剤など
      肺動脈の流れが悪くなると、右心室に負担がかかります。そうなると、心不全が起こり、血圧の低下やむくみが生じやすくなるので、必要に応じて使用します。

6.肺塞栓症の予防

肺塞栓症や、肺塞栓症の主な原因となる深部静脈血栓症は、どなたにでも起こりうる疾患です。つまり、治療をしたからと言って、再発しないとは限りません。
日頃からちょっとした心がけが、発症・再発リスクを下げることに繋がります。

日常生活での予防法

肺塞栓症・深部静脈血栓症を予防するためのポイントは、以下の通りです。

  • 適度に足を動かす(運動する)

    長時間同じ体勢で血流を停滞させないよう、時々、足を上下に動かして血行を促しましょう。飛行機などの乗り物に乗る際は、気兼ねなく立ち歩ける通路側のシートに座ったり、定期的に休憩を取って体を伸ばしたりすると良いでしょう。

     

    (図)深部静脈血栓予防のための血流促進運動例

  • 適切な水分補給

    適度に水分補給を行い、特に長時間乗り物に乗る場合には十分に水分を取って、血流の停滞を防ぎましょう。また、脱水を招くアルコール・コーヒーなどのカフェインは控えましょう。

  • 定期的に通院する(退院後の方)

    定期的に問診・超音波検査などを行い、経過観察を続けることでお薬の効き具合や肺塞栓症および肺塞栓症の原因となる深部静脈血栓症の再発などの兆候を早期に発見できる可能性があります。

1)下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)があると、肺塞栓症になりますか?

深部静脈血栓症と混同される病気に「下肢静脈瘤」がありますが、下肢静脈瘤があっても肺塞栓症にはなりません。
下肢静脈瘤は、女性や立ち仕事の方・肥満の方に多く見られ、静脈内の逆流防止弁の機能障害により血液がうっ滞する(溜まる)ため、皮下の表在静脈が蛇行したり拡張してコブを形成したりする疾患です。そのため、下肢静脈瘤は基本的に放置しても命に関わることはありません。ただし、血栓ができる下肢静脈瘤もあります(血栓性静脈炎)。
一方、深部静脈血栓症は、血栓が流されることで肺塞栓症に繋がる可能性があるので、発見されたら速やかに治療が必要となる病気です。

2)肺塞栓症での入院期間はどのくらいですか?

肺塞栓症では新たな血栓が流れていかないよう、入院による一定期間のベッド安静が必要となります。個人差はありますが、血栓が小さく自覚症状が軽症であれば、1週間程度の入院となります。

3)術後安静でも血栓ができると知り、入院が怖いのですが……。

血栓予防には足の運動が大切ですが、安静が必要な患者さんの場合には難しいこともあります。
入院中など医療現場で発生する深部静脈血栓症に対して、医療機関では様々な対策を取っています。近年は静脈血栓塞栓症ガイドラインに沿って、以下のような方法で血栓予防に努めています。なお、手術内容や患者さんの危険因子を考慮して、選択します。

低リスク早期離床や積極的な運動を行う
中リスク・弾性ストッキング(きつめの靴下)を履いて、深部静脈の血流を促す ・足に空気ポンプを巻いて、マッサージするように圧迫して血流を作り出し、足の血流を停滞させないようにする(間欠的空気圧迫法)
高リスク・間欠的空気圧迫法/抗凝固療法を行う ・抗凝固療法と弾性ストッキング/抗凝固療法を併用する

(表)リスクレベルと推奨予防法

4)退院後の外来通院はどのくらいの間隔ですか?

薬物療法で使用する内服薬、基礎疾患、合併する疾患にもよりますが、目安としては1か月に1回程度の通院となります。

8.院長からひと言

肺塞栓症の多くは、下肢にできる深部静脈血栓症が由来となることが多く、エコノミークラス症候群や術後の安静時などに発症しやすい疾患で、命に関わることもある疾患です。
低容量ピルを内服している場合にも、重篤な副作用として起こる可能性があります。
また、片側の浮腫などあれば深部静脈血栓症を疑う必要があります。
肺塞栓症を予防するために、水分をたくさん摂ること、運動することを忘れずに過ごしていきましょう。