1.不整脈とは
不整脈とは、心臓の拍動(心拍)のリズムが、何らかの原因で乱れてしまう状態を指します。
心拍が通常よりも速くなる「頻脈(ひんみゃく)」と、通常よりも遅くなる「徐脈(じょみゃく)」、そして、一時的に心拍が飛ぶ(途切れる)「期外収縮(きがいしゅうしゅく)」の大きく3つのタイプに分けられます。
不整脈は、運動や発熱、精神的な興奮といった生理的な原因や生活習慣などで起こる場合もあり、健康な人であっても一時的に心拍が乱れることは珍しくありません。
しかし、不整脈の中には突然死を招くものや、心不全や脳梗塞などを引き起こす危険なタイプもあるため、動悸や息切れ、脈の異常などを感じた時には、放置せず、早期に詳しい検査を受けることをおすすめします。
心拍リズムのしくみ
心臓は、「心筋」という特殊な筋肉でできた袋状の臓器です。
その内部は、「左心房」「左心室」「右心房」「右心室」という4つの部屋に分かれており、規則的なリズムで拡張と収縮を繰り返すことで、全身に血液を送り届けるポンプのような働きをしています。
拍動の規則的なリズムは、右心房にある「洞結節(どうけっせつ)」で発生する微弱な電気刺激によってコントロールされており、心臓内に張り巡らされている「刺激伝導系」という回路を通って心房から心室へと伝達されます。
このように正常な拍動が行われている状態を「洞調律(どうちょうりつ)」と言い、電気が伝わる時に生じるわずかな時差によって心房と心室の拡張と収縮のタイミングがずれることで、血液が全身に送り出されます。
一般的な成人の拍動は、通常、一分間に60~80回程度で、一日にすると10万回にも及びます。心拍リズムの速度は常に一定ではなく、呼吸や運動、精神的な興奮などによって変動し、自律神経によって調整されていますが、何らかの原因で電気刺激が正しく作られなくなったり、信号の伝達がうまくいかなくなったりすると、心拍のリズムには乱れが生じて不整脈を引き起こします。

2.不整脈の種類
不整脈は、拍動の速さや状態により、「頻脈性不整脈」「徐脈性不整脈」「期外収縮」の3つに大きく分けられます。また、刺激伝導系の異常が心室(心臓の下の部屋)で起きるものを「心室性不整脈」、心房などの心室よりも上の部分で起こるものを「上室性不整脈」と言います。
頻脈性不整脈
頻脈性不整脈は、拍動が1分間に100以上になってしまう状態です。
心臓内の電気刺激が早く作られる、もしくは通常とは違う異常な電気の回路ができ、電気信号が堂々巡りをしてしまうことがおもな原因です。
頻脈性不整脈を発症すると、心臓には大きな負担がかかるため、動悸(どうき:心臓がドキドキ、バクバクする)、息切れ、胸の痛みなどの症状が現れ、心不全(心臓の機能低下)を招くことがあります。また、心臓内の血流が悪化して血栓ができると、血流に乗って脳の血管を詰まらせ、脳梗塞を引き起こすようなケースもあります。
≪おもな頻脈性不整脈の種類≫
- 上室性不整脈
名称 | 特徴 |
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心房細動 (しんぼうさいどう) | 心房内に多数の不規則な電気刺激が起こり、心房が細かく痙攣したように震える状態。心不全や脳梗塞を引き起こすリスクが高い。 |
心房粗動 (しんぼうそどう) | 異常な電気回路により、電気刺激が右心房内の同じ場所を回り続ける状態。心不全や脳梗塞を発症することがある。 |
発作性上室頻拍 (ほっさせいじょうしつひんぱく) | 心臓の上の部屋(心房、洞結節、心房と心室の接合部)で起こる突発的な不整脈の総称で、突然、規則的なリズムの速い脈が生じるのが特徴。 原因となる部位によって、房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT)*1、房室回帰性頻拍(WPW症候群)*2、心房頻拍*3などに分けられる。 |
*1房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT)……心房と心室を中継する「心房結節(しんぼうけっせつ)」付近で電気信号が回り続ける
*2房室回帰性頻拍(WPW症候群)……正しい電気の通り道以外に、異常な回路が存在し、心室に伝わった電気信号が心房に戻ってきて回り続ける
*3心房頻拍……心房内の洞結節以外から異常な電気信号が発生することで起こる
- 心室性不整脈
名称 | 特徴 |
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心室頻拍 (しんしつひんぱく) | 心室内で異常な電気刺激を発生する部位があり、心拍が異常に速くなる状態。心機能が低下し、十分な血液が送り出せなくなると、意識を失い、心停止に至ることもある。 |
心室細動 (しんしつさいどう) | 心室内で痙攣が起き、小刻みに震える状態。心臓の機能が停止してしまうと数秒で意識を失い、至急、処置をしないと短時間で死亡する。 |
徐脈性不整脈
徐脈性不整脈は、拍動が1分間に50以下になってしまう状態です。
電気の通り道である刺激伝導系の機能が低下し、電気刺激が作られなくなったり、伝達の途中で止まってしまったりすることがおもな原因です。
心拍数が遅くなると、脳や全身に送る血液量が減って心不全の状態になり、息切れやめまい、疲労感などの症状が現れ、時には失神することもあります。
≪おもな徐脈性不整脈の種類≫
- 上室性不整脈
名称 | 特徴 |
---|
洞不全症候群 (どうふぜんしょうこうぐん) | 洞結節の動きが一時的に止まり、電気刺激が作られなくなる状態。 持続時間が長いと血液が脳や全身に届かなくなり、心不全を起こすことがある。 |
房室ブロック (ぼうしつぶろっく) | 心房から心室への信号の中継点である「房室結節」の機能が低下し、心房から心室への信号が伝わらなくなる状態。 心筋梗塞などの病気に伴って発症する場合、極端に脈が遅くなり、心停止することもある。 |
期外収縮
洞結節以外の場所から別の速い電気信号が出ることによって起こる不整脈です。
心拍が一時的に抜けたり、乱れたりするのが特徴で、通常は、数十秒程度で治まります。
不整脈の中で最も多いタイプで、30歳以上になるとほとんどの人に認められ、年齢と共に徐々に増加します。
期外収縮は、心臓病などで発症する場合もありますが、多くは年齢や体質などによって起こるもので、回数が少ない場合は特に心配ありません。
自覚症状がないことも多く、健康診断で指摘されるようなケースもありますが、発作が頻繁に起こるようになると、動悸や胸の不快感、脈が飛ぶ感じなどを感じるようになります。
≪期外収縮の種類≫
- 上室性不整脈
名称 | 特徴 |
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心房性期外収縮 (しんぼうせいきがいしゅうしゅく) | 心房内で異常な電気信号が起こり、余分な拍動が生じる状態。 高齢者や肺の持病がある人の発症が多いが、健康な人に起こる場合もある。カフェインやアルコール摂取、風邪などの体調不良などが引き金になることがある。 |
- 心室性不整脈
名称 | 特徴 |
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心室性期外収縮 (しんしつせいきがいしゅうしゅく) | 心室内で異常な電気信号が起こり、余分な拍動が生じる状態。 高齢者の発症が多いが、健康な人でもカフェインやアルコールの摂取、ストレス、薬剤によって生じることもある。心臓に持病がある場合、心室細動や心室頻拍などの危険な不整脈を招くことがある。 |
3.不整脈のおもな原因
不整脈を引き起こすおもな原因には以下のようなものがあります。
加齢
年齢が上がるにつれ、電気の通り道である「刺激伝導系」の働きが低下するため、60歳を過ぎた頃から心拍の乱れが起こりやすくなる傾向があります。
体質
生まれつき電気の伝わる回路(刺激伝導系)に異常があり、不整脈が起こりやすい体質を持っている方もいます。
生活習慣の乱れ
不規則な生活、過労、ストレス、睡眠不足などで自律神経が乱れると、交感神経が優位になって心拍数が上がり、心臓内の電気刺激も起こりやすくなります。
多量の飲酒や喫煙、カフェインの摂りすぎなどが原因で不整脈が起こることもあります。
基礎疾患
心筋梗塞、狭心症、心臓弁膜症、心不全といった心臓病の持病がある方は、二次的に心臓内を伝達する電気信号の異常も起こりやすくなるため、不整脈になるリスクが高まります。
また、高血圧も、心臓に大きな負担をかけるため、「心肥大(しんひだい:心臓の筋肉が厚くなって収縮力が弱まる)」による不整脈が起こりやすくなります。
その他、「バセドウ病」などの甲状腺異常や「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」などの肺の病気も不整脈を起こすことが分かっています。
薬剤
病気の治療で服用している薬が不整脈の原因になる場合もあります。
降圧薬や抗うつ薬をはじめとする内服薬の一部には、自律神経や心臓の電気の発生に作用する成分を含んでいるものがあり、不整脈を引き起こすことが知られています。
4.不整脈のおもな検査
不整脈には、危険性の低いものから高いものまで、たくさんの種類がありますが、重症度は必ずしも症状の強さに比例するとは限りません。ご自身の不整脈がどのようなタイプであり、治療が必要かどうかを知るためにも、詳しい検査を受けることが重要です。
不整脈の検査には以下のような種類があり、患者さんの状態に応じて必要なものを選択します。
心電図検査
心臓で発生する微量の電気を波型のグラフに記録する検査です。
ただし一般的に行われている「安静時12誘導心電図検査」だけでは、不整脈が見つけられない場合も多いことから、24時間心電図を記録する「ホルター心電図検査」や運動時の心電図を記録する「運動負荷心電図検査」などを行うこともあります。
画像検査(胸部レントゲン、心エコー)
レントゲンでは、心臓の大きさや形の異常の有無などを調べます。
心エコー(超音波検査)では、心臓の収縮力や弁の動きの状態などを調べます。
カテーテル(冠動脈造影)検査
血管の詰まりや狭窄の有無などを確認する検査です。
足の付け根などの血管から「カテーテル」と言われる細い管を挿入して心臓まで運び、心臓自身に栄養を送る「冠動脈(かんどうみゃく)」に造影剤を入れてX線撮影を行います。
カテーテル検査は入院が必要な検査です。必要に応じて近隣の提携病院をご紹介いたします。
EPS検査(心臓電気生理学的検査)
不整脈の状態を調べる検査です。
電極が付いたカテーテルを足の付け根などから挿入して心臓まで運び、電極で心臓に直接電気刺激を与えて不整脈を誘発し、拍動の状態を心電図で記録します。
EPS検査は入院が必要な検査です。必要に応じて近隣の提携病院をご紹介いたします。
血液検査
病気の有無や全身の健康状態を調べるため(甲状腺機能異常や電解質異常、心不全など全身状態を反映して不整脈となることがあります)、採血して血液を詳しく調べます。
5.不整脈の治療
不整脈にはたくさんの種類がありますが、現在では治療法の進歩により、ほとんどの不整脈が治療できるようになっています。治療内容は不整脈のタイプや重症度によってそれぞれ異なり、患者さんの状態に合わせて適切な治療を選択します。
頻脈性不整脈の治療
- 薬物療法 抗不整脈薬……不整脈を改善、予防(脈を遅くするものや脈のリズムを整えるものなど)
抗凝固薬……血栓ができるのを防ぎ、脳梗塞を予防する(おもに心房細胞など)
漢方薬……不安や緊張を和らげる
※ただし、薬物療法は、薬の飲み方によっては別の不整脈を引き起こすこともあるため、しっかりと服薬の管理を行うことが大切です。 - 電気的除細動(電気ショック)
心室頻拍や心室細動などの致死性の高い不整脈が起こった時に緊急処置として行う治療です。機能を失った心臓に電気ショック(除細動)を与え、心拍を正常に戻す効果があります。 - カテーテルアブレーション(心筋焼灼術)
電極の付いたカテーテル(細い管)を足の付け根から挿入して心臓まで通し、頻脈の原因となっている部分に高周波の電流を流して焼き(焼灼:しょうしゃく)、不整脈を起こさないようにする治療です。薬物療法では症状が改善しない場合に行う治療で、不整脈を完治させることも可能です。
入院が必要な治療です。近隣の提携病院をご紹介いたします。 - 外科手術(メイズ手術)
不整脈の原因となっている部分を切除することで、電気刺激をコントロールし、心房の痙攣を抑える治療です。薬物療法やカテーテルアブレーションで改善しない心房細動などに行いますが、身体への負担もあるため、心房細動単独の治療ではなく、弁膜症など他の病気の手術と同時に行います。入院が必要な治療です。近隣の提携病院をご紹介いたします。 - 植込み型除細動器(ICD)
心臓に電気ショック(除細動)を与える装置(ICD)を手術で体内に埋め込み、不整脈を感知した時に繰り返し電気刺激を発し、拍動を正常に戻す治療です。
心室細動などの危険性の高い不整脈に行う治療で、ICDは4~5年位で電池交換が必要になるため、再手術で本体ごと交換する必要があります。
入院が必要な治療です。近隣の提携病院をご紹介いたします。
徐脈性不整脈の治療
- ペースメーカー
手術で体内にペースメーカーを埋め込み、拍動が遅くなったのを感知した時に電気的な刺激を発することで、脈を一定に保ちます。ペースメーカーは定期的に動作確認が必要です。
期外収縮の治療(※症状のある方のみ)
- 薬物療法
抗不整脈薬……不整脈を改善、予防(脈を遅くするものや脈のリズムを整えるものなど)
安定剤……不安や緊張を和らげる
※ただし、薬物療法は、薬の飲み方によっては別の不整脈を引き起こすこともあるため、しっかりと服薬の管理を行うことが大切です。 - カテーテルアブレーション
電極の付いたカテーテル(細い管)を足の付け根から挿入して心臓まで通し、頻脈の原因となっている筋肉の一部を高周波で焼き、不整脈を起こさないようにする治療です。
強い症状があり、薬物療法では症状が改善しない場合に治療を検討します。
入院が必要な治療です。近隣の提携病院をご紹介いたします。

6.不整脈を防ぐための生活上の注意
不整脈の中には、過労やストレス、寝不足といった生活習慣の乱れや体調不良によって発症するものも多く、軽度であれば、生活習慣を見直すことで、症状が改善する場合もあります。
日頃から、心臓に負担をかけないよう、以下のような点に気を付け、規則正しい生活を心掛けましょう。
- 十分な睡眠をとる
- 過労やストレスを避ける
- バランスの良い食事を摂る(脂肪分やコレステロールの多い食事を控える)
- コーヒーなどのカフェインや刺激となるものの摂取を控える
- 適度な運動を行う(※症状によっては激しい運動を控える場合あり)
- 温度差の少ない環境を保つ(空調や衣服でコントロールする)
- 禁煙
- 禁酒
※もともと心臓などの基礎疾患をお持ちの方は、不整脈のリスクを抑えるため、日頃から適切な治療で病気のコントロールを行うことが重要です。また、内服薬による不整脈が疑われる場合には、内服薬の見直しや変更が必要になる場合もあります。
7.よくある質問
1)不整脈は必ず治療が必要ですか?
不整脈があるからといって必ず治療を行うというわけではありません。重い基礎疾患がなく、自覚症状もない期外収縮などは、特別な治療は行わず、経過観察となる場合も多いです。
一方、心室細動のような致死性の高い不整脈は至急処置を行わないと命を落とす可能性がありますし、心臓などに基礎疾患がある方も、もし発作を起こすと命に関わることから、早期に適切な治療が必要になります。そのほか、自覚症状が強く、日常生活に支障をきたしているような場合や、心不全や脳梗塞の可能性があるなども治療が必要です。
2)危険な不整脈の症状は?
不整脈は、多くの人に起こる症状で、歳をとれば誰でも少しずつ増えていくものです。
その多くは心配のないものですが、意識を失ってしまう場合や、強い息切れやめまいなどが伴う場合、命に関わる危険な不整脈が疑われますので、至急、治療を受ける必要があります。
8.院長からひと言
不整脈は、本人にとってとても辛い症状である場合が多いです。
不整脈には、治療が必要なもの、症状があれば治療の対象となるもの、放置して良いものの3つに分類することができますが、あくまでも自己判断をしないことが大事です。
当院では心電図、血液検査、心臓超音波検査、ホルター心電図検査などを組み合わせて診断を行います。最近、当院では1週間の心電図を記録できる「Heartnote」を採用しました。これまでは装着を付けた日にたまたま何も症状が出なかった、ということも多々ありましたが、長期間の記録が可能になったことで、不整脈の診断につながりやすくなりました。
幸い、近隣には経験豊富な先生のいらっしゃる連携医療機関がありますので、カテーテルアブレーションなど入院での治療が必要な場合には、ご希望をお伺いし、適切な状態で治療を受けられるよう紹介も行っています。また、ウェアラブルウォッチやポータブル心電計も手に入るようになり、ご自身で心電図の記録をとることもできるようになっていますので、動悸などの気になる症状がある方はぜひ受診をご検討ください。