• 狭心症の症状は、一般的には「胸の痛み」というイメージがあると思います。しかし、実際には、息苦しい、肩が痛い、気持ち悪い、歯が痛いなど、色々な症状として起こることがあります。いつもと違う症状が起きた時には遠慮なく受診してください。

診察では、まずは急を要する状態かどうかを判断します。問診や診察、心電図や心エコー、ホルター心電図、血液検査、レントゲンに加えて、緊急での治療が必要かどうかを判断する材料の一つとして、「TROP-T」という、心筋梗塞や不安定狭心症の早期で上昇を認める、採血でわかるキットもあります。

緊急の治療が必要と判断した場合には連携医療機関に連絡いたします。緊急でない場合も、できる限り診断に早くつながり、最適な治療ができるように進めていきます。
狭心症を発症して治療を行った場合、その先も安心して毎日を快適に過ごすためには、薬物療法や運動療法などの定期的な治療がとても重要となります。
ちょっとでもおかしいなと思った場合には、早めに受診してください。

狭心症とは

狭心症は、「冠動脈(かんどうみゃく)」の血流が悪化して心臓が一時的に酸欠状態に陥り、激しい胸の痛みや圧迫感などの発作が起こる病気です。

通常、狭心症発作の痛みは、安静にして休んでいると数分程度で治まることが多いですが、頻繁に発作が起こるようになったり、発作の持続時間が長くなったりする場合には病状が悪化している可能性が高く、心筋梗塞を引き起こして命に関わるケースもあることから、早期に受診して適切な治療を行うことが大切です。

心臓の働きと狭心症発症のメカニズム

心臓は、握りこぶし程度の大きさの臓器で、その大部分は、「心筋(しんきん)」と言われる筋肉でできています。新鮮な血液を全身に送り出す「ポンプ」の働きをしており、一日10万回以上、規則的に伸びたり縮んだりを繰り返しながら、全身に血液を送り届けています。

その心臓を動かすため、必要な酸素と栄養を含んだ血液を心臓に供給しているのが「冠動脈(かんどうみゃく)」です。心臓の表面に沿って走る冠動脈には、「右冠動脈」と「左冠動脈」の二本があり、左冠動脈は、さらに「前下行枝(ぜんかこうし)」と「回旋枝(かいせんし)」という2本の枝に分かれています。これらの3本の大きな枝が心臓を覆う「冠」のような形状をしていることからこの名前が付いています。

狭心症は、冠動脈の内側の一部が狭くなり(狭窄:きょうさく)、血流が滞ってしまう状態です。

心筋には十分な酸素や栄養が届かなくなり(虚血:きょけつ)、心臓の働きが妨げられてしまうことで、胸の痛みや圧迫感などが起こります。

狭心症の種類

狭心症には大きく分けて、以下の二つの種類があります。

労作性(ろうさせい)狭心症

「重い物を持ち上げる」「階段を上る」「走る」など、何らかの行動(=労作)をすることにより発作が誘発される狭心症です。温度差がきっかけになることもあり、寒い時期の入浴時に発作が起こることもあります。

狭心症の発作は、通常、安静にすると和らぎ、数分~長くても15分程度で治まります。労作性狭心症の中でも、上記のような症状が安定して数か月以上続いているものは「安定狭心症」と言われ、心筋梗塞を起こす可能性は少ないと考えられています。

それに対し、発作の回数が増えてきた時や、発作の持続時間が長くなってきた時、さらには少しの運動や安静時にも発作が起こるようになってきたものを「不安定狭心症」と言います。

不安定狭心症は、「急性冠症候群(きゅうせいかんしょうこうぐん)」とも言われ、短期間のうちに病状が進行して、心筋梗塞を起こすリスクが高くなることから、早急に受診して治療を受ける必要があります。

安静時狭心症(冠攣縮性狭心症)

夜間の就寝中など、特別な運動をしていない安静時に発作が起こる狭心症です。

ほぼ一定の時間帯に発作が起こるのが特徴で、明け方に発症するケースも多く見られます。

安静時狭心症の多くは冠動脈の一時的な痙攣(けいれん)によるもので、収縮した血管の血流が悪化して発作を引き起こすことから、「冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)」とも言われます。

労作性狭心症と同様、発作の頻度や現れ方に変化が出てきた時は、不安定狭心症に移行している疑いがあるので、早期に受診して治療を行う必要があります。

労作性狭心症の特徴

労作性狭心症の特徴は、運動(動作)時に起こる痛みの発作です。

運動時には大量の酸素が必要になるため、心臓からはたくさんの血液が送り出され、心筋の働きも増加します。冠動脈の一部に狭窄箇所があると、もともと血流が悪化しているところに、運動によりさらに大きな負荷がかかってしまうため、心臓に十分な量の酸素を供給することができなくなって、発作が起こります。

発作による痛みの特徴

狭心症の痛みは、「動くことで痛みが発生し、安静にしていると楽になる」のが特徴です。

胸の中央部分が締め付けられるように痛み、冷や汗や吐き気、息苦しさなどを伴うこともあります。押しつぶされるような圧迫感を訴えられる方も多いです。

また、患者さまによっては、胸だけでなく、あごや奥歯、のど、背中、肩、腕などに痛みが出る場合もあります。

このように、心臓から離れた部分に出る痛みは「関連痛(かんれんつう)」、もしくは「放散痛(ほうさんつう)」と言われ、おもに体の上半身の左側に起こりやすいのが特徴です。(右側に出る場合もあります)

発作時の胸の痛みは、心臓から出た痛みの電気信号(刺激)が感覚神経を通り、脊髄や脳に送られることで感じるしくみになっていますが、感覚神経は、歯やあご、背中や肩など、上半身のそれぞれの場所からも同じように繋がっているため、信号が送られる際に、感覚神経が混乱をきたし、別の部分の神経に刺激が移ってしまうことで関連痛が起きると考えられています。

労作性狭心症の原因

労作性狭心症のおもな原因は、冠動脈の「動脈硬化(どうみゃくこうか)」です。

動脈硬化はその名の通り、血管が硬く・厚くなってしまった状態です。血管本来のしなやかさが失われ、血管の内側の壁には脂肪やコレステロールなどがこびりついて、小さな塊「プラーク」ができます。最初は小さかったプラークは、動脈硬化が進むにつれてだんだん大きくなり、「こぶ状」に盛り上がるようになると、血管の内腔(内側)が狭められて(狭窄)、血液の流れを妨げるようになります。

動脈硬化の恐い点は、初期にはまったく自覚症状がないことです。そのため、気付かないうちに症状が進行してしまうことが多く、冠動脈の狭窄が75%を超える頃になって初めて、胸の痛みや息苦しさなどの自覚症状が現れるようになります。

血管の動脈硬化は加齢によって起こりますが、高血圧や高脂血症、糖尿病といった生活習慣病、肥満、喫煙、ストレスなどもリスクを高める要因になり、当てはまる要因が多ければ多いほど、加速度的に動脈硬化を進行させることが分かっています。

労作性狭心症の検査・診断

  • 狭心症の診断には問診と検査が必要です。

    問診時には、どのような症状が、いつ、どのように、どれくらいの頻度で現れるかなどの詳しい情報をお伺いし、必要に応じて以下のような検査を行います。

心臓超音波検査(心エコー)

超音波を使って、心臓の大きさや心筋の動きの状態、弁が正常に機能しているかなどを確認します。

心電図検査(安静時)

安静にした状態で、手足や胸に電極を付け、心臓から発生する微小な電気を取り出し、心臓の動きの状態を測定します。

運動負荷心電図(トレッドミル検査)

運動をしながら行う心電図の検査です。安静時の心電図検査では、労作性狭心症かどうかの判定ができないため、ベルトコンベアーの上を歩きながら少しずつ負荷をかけ、心電図の変化から狭心症の可能性があるかを確認します。

心臓核医学検査(心筋シンチグラム)

心臓に微量の放射性薬品(アイソトープ)を投与し、その分布を撮影する検査です。心臓のどの部分の血流が低下しているのかを確認することができます。薬物もしくは運動負荷によって心臓に負荷をかけた状態を作り、狭心症の有無を調べます。

心臓CT検査

造影剤を静脈から注射し、心臓をCTで撮影する検査です。冠動脈の狭窄状態や、動脈硬化による冠動脈の壁の石灰化の有無を確認することができます。

冠動脈造影検査(心臓カテーテル検査)

冠動脈の狭窄の程度や部位、病変の起きている箇所の数などを確認する検査です。

麻酔後、腕や足の付け根にある動脈に「カテーテル」という2㎜程度の太さのチューブを入れて心臓まで通し、造影剤を注射して冠動脈を撮影します。日帰り入院での検査が一般的です。

労作性狭心症の治療

労作性狭心症の治療には、以下のような種類があります。

薬物療法

比較的軽度で、症状が安定している場合、薬物療法で症状の緩和と発作の予防を行います。

狭心症の薬剤には、以下のような種類があり、患者さまの症状に合わせて処方を行います。

-血管拡張薬(硝酸薬、カルシウム拮抗薬)

冠動脈の血管を拡張するほか、全身の血管も広げることで心臓の負担を減らす効果があります。

狭心症発作時には硝酸薬の一つである「ニトログリセリン(通称ニトロ)」を応急処置として使用します。ニトロには、「舌下錠(ぜっかじょう:舌の下に入れて口の中で溶かす)」や口から吸入するスプレー剤があり、即効性が高いので素早く発作の痛みを緩和することが可能です。(12分程度で効果が出ます)

ただし、ニトロはあくまでも一時的に症状を抑えるものなので、継続した効果を得るためには、長時間作用型の硝酸薬やカルシウム拮抗薬が必要になる場合もあります。

抗血小板薬

血液をサラサラにして固まりにくくし、動脈硬化の進行を遅らせます。

β遮断薬(ベータブロッカー)

交感神経の活動を抑えることで、血圧を下げ、脈拍も少なくすることで心臓の負担を軽減する効果があります。

カテーテル治療(冠動脈形成術)

薬物療法だけではコントロールが難しい時に行う治療です。

バルーン(風船)の付いたカテーテルを冠動脈に入れて膨らませ、狭くなっている部分の血管を押し広げます。バルーンで膨らませた後は、「ステント」と言われる網目状の金属を入れて再度、血管が狭窄するのを防止することが多いです

冠動脈バイパス術

薬物療法やカテーテル治療では十分な効果が得られない場合に行う治療です。

狭窄して血流が悪くなった部分の前後に他の場所から持ってきた血管を繋げ、別の通路(バイパス)を作ることで血流を改善させる手術です。

当院では、診察の結果、精密検査(カテーテル検査など)や、外科的な治療が必要と判断した場合には、患者さまにご相談の上、提携する医療機関をご紹介しております。検査や治療の内容によっては入院が必要になる場合もございます。

(提携病院:東部医療センター、名古屋ハートセンター、名古屋市立大学病院、名古屋第二赤十字病院など)

労作性狭心症の予防とコントロール

狭心症の予防には動脈硬化の進行を予防することが大切です。

すでに高血圧や糖尿病、脂質異常症などで治療を受けられている方は、病気のコントロールがとても重要になるので、処方された薬は忘れずに飲みましょう。

また、日常生活の見直しも必要になります。

食事や運動、禁煙などの生活習慣の改善も狭心症のリスクを下げる効果が期待できます。

以下のような点に気を付け、血管に優しい生活を目指しましょう。

バランスの取れた食事

摂取カロリーはもちろん、塩分、糖分、飽和脂肪酸の摂りすぎに注意しましょう。

肉や乳製品を摂りすぎない、野菜や魚、大豆、海藻、果物などを積極的に摂るなど、バランスよく栄養を摂ることが大切です。お酒の飲みすぎなどアルコールの過剰摂取にも注意が必要です。

適度な運動

適度な運動は血流を改善する効果が期待できます。ジョギングやウォーキング、サイクリング、水中ウォーキングなどの有酸素運動を130分以上、週34日程度を目安に行いましょう。

病状によっては運動をしてはいけない場合もあります。すでに胸痛などの症状が出ている場合は、医師にご相談ください。

禁煙

タバコは、血管の壁を傷つけてしまうほか、血液を固まりやすくするので、酸素を運ぶ機能が低下して狭心症や心筋梗塞などを招きやすくなりますので、禁煙するようにしましょう。(ご家族からの受動喫煙にも注意が必要です。)

十分な休息

安静にしている睡眠中は、心臓の動きを必要最低限に抑えることができます。

日中、活発に活動している心臓の負担を和らげるためにも良質な睡眠をしっかり確保しましょう。

上記のような日常的な取り組みは、狭心症の治療を開始した後も必要になります。

規則正しい生活を送ることで、治療の経過を良好にするだけでなく、再発を予防する効果も期待できますので、継続して続けていくことが大切です。

よくある質問

狭心症と心筋梗塞の違いは何ですか?

狭心症は、血管が狭くなって、血流が悪くなっている状態ですが、完全に詰まってしまっているわけではありません。

それに対して、血管の狭窄が進んで完全に塞がってしまい、心臓の一部の細胞が壊死(えし)してしまうものが急性心筋梗塞です。心筋梗塞の症状は15分以上、長いと数時間続き、突然死につながることがあります。

狭心症や心筋梗塞は、「虚血性心疾患」と言われ、がんに次いで日本人の死亡原因の第二位となっています。狭心症を放置しておくことが、心筋梗塞のリスクを高めるため、早期に治療を受けるようにしましょう。

(参考) 令和元年(2019) 人口動態統計月報年計(概数)の概況

胸の痛みで、受診する目安はありますか?

強い発作が起きていなくても、胸の痛みや圧迫感など、気になる症状がある時は、様子を見ずに、早めに診察を受けるようにしましょう。

万一、狭心症と診断された場合でも、軽症で症状が安定して入ればお薬でコントロールすることが可能です。また、再発を予防するためにも治療は必要になります。

当院では、患者さまが安心して毎日を過ごせるよう、手助けをさせていただきたいと思っております。