• 風邪とよく一言で言いますが、アレルギーや気管支炎との判断が難しいことはよくあります。

    ウイルスの感染がほとんどのため、治療としては対症療法となります。身体を温めて水分をしっかり摂り、睡眠をよく取ることが重要となります。他の人との接触を避け、自宅でしっかり安静を取ることが1番の治療になります。

    慌てて医院を受診せずに、まずは安静を心がけてください。

風邪と気管支炎の違い

風邪と気管支炎の大きな違いは、「ウイルスや細菌が付く場所(炎症の場所)」です。

風邪 気管支炎
炎症の場所 上気道(鼻~のど) 下気道(気管・気管支)
症状 くしゃみ 鼻水 のどの痛み 咳 咳(数週間~数か月) 痰
発熱 38℃くらいまで 風邪に伴い、38℃くらいまで
ウイルス性:白色・粘液性 細菌性:黄色・膿性 白黄色~黄色や緑色
改善の目安 1週間~10日程度 咳は2~3週間程度続く
注意点 5日以上熱が続く2週間以上咳が続く場合には、ただの風邪ではない可能性がある。 呼吸時に「ゼーゼー」音がする・息切れがみられる場合には、喘息や肺炎の可能性がある。

風邪とは?

大半の人が罹患する、日常よくみられる病気のひとつ「風邪」。
実は「風邪」とは俗称であり、医学的には「かぜ症候群」と呼ばれます。
かぜ症候群は、鼻腔(びくう)から咽頭(いんとう)までの空気の通り道(上気道)に、急性の炎症が起こることによって、発熱・鼻水・くしゃみ・咳など様々な症状が現れる疾患の総称です。

風邪の原因

風邪の原因の80%~90%は「ウイルス感染」です。ほかに、肺炎球菌、肺炎マイコプラズマ、肺炎クラミジアなど、細菌(微生物)が原因となる風邪もあります。
現在、風邪を引き起こすウイルスは200種類以上あると推定されており、さらに同じウイルスで複数の「型」があったり年々変異したりするため、原因菌の特定は極めて難しい状況です。

風邪を引き起こす代表的なウイルス・細菌は、次の通りです。

ライノウイルス

風邪の30~50%を占める原因ウイルス。一年中みられるが、特に春と秋が多い。主に鼻症状を引き起こす。

コロナウイルス

ライノウイルスの次に多く、風邪の10~15%を占める原因ウイルス。冬に流行のピークがあり、6歳までにほとんどの子どもが感染する。主に鼻やのどの症状を引き起こすが、多くは軽症。コロナウイルスには旧型(風邪の原因)4種類と新型3種(COVID-19を含む)がある。

エンテロウイルス

エンテロウイルスの一種であるコクサッキーウイルスが原因となり、乳児・幼児に多くみられる「手足口病(口や手足に発疹)」「ヘルパンギーナ(のどに小さい水疱、のどに強い痛み)」を引き起こす。夏風邪の原因のひとつ。アルコール消毒や熱に対する抵抗力が高い。

アデノウイルス

プールの水を介してうつる「プール熱(咽頭結膜熱)」の原因ウイルス。主にのどの痛み(咽頭炎)、目の充血(結膜炎)、高熱が現れ、気管支炎や肺炎を引き起こす。夏風邪の原因のひとつ。アルコール消毒や熱に対する抵抗力が高い。

RSウイルス

2歳までにほぼ100%の人が感染する。患者の約75%は1歳以下で発熱・鼻水などが現れる。しかし、早産児や2歳以下で心臓・肺・神経・筋・免疫不全などの基礎疾患がある乳幼児では細気管支炎・肺炎などの重症化リスクが高い。年長児以降の重症化は少ない。

ヒトメタニューモウイルス

春~初夏に流行し、子ども・高齢者・免疫が弱くなっている人に多くみられる。咳・鼻水・のどの痛み・発熱などの症状から気管支炎・肺炎まで幅広く、RSウイルス感染症の症状とよく似ており、症状だけで区別は困難。年長児以降は症状が軽くなる傾向がある。

パラインフルエンザウイルス

秋・春によくみられ、4つの型がある。6歳頃までの子どもに多く、発熱(微熱)・咳・鼻水などが現れる。再感染時は初感染よりも軽症。1~4型まであるが、1型は3歳までの乳幼児によくみられる「クループ(喉頭気管気管支炎)」を引き起こす。3型は子ども・高齢者・免疫が弱くなっている場合、肺炎や細気管支炎を引き起こすことがある。RSウイルスに比べて重症化は少ない。

インフルエンザウイルス

インフルエンザを引き起こす原因ウイルスで、A・B・C型がある。主な流行はA型B型であり、日本では1~3月頃がピークとなる。たまに夏の流行もみられる。発熱(高熱)・頭痛・倦怠感・関節痛などが突然現れ、一般的な風邪に比べて全身症状が強い。感染力が強いので集団感染しやすく、さらに少しずつ変異するので、毎年のように流行を繰り返す。肺炎・気管支炎の合併や急性脳症を引き起こすことがある。

溶血性連鎖球菌(溶連菌)

のどに感染して「溶連菌感染症」を引き起こす細菌。のどの痛み・扁桃に白い膿ができる・発熱(38~39℃)・手足に小さな赤い発疹・舌の表面に赤いぶつぶつ(苺舌)などが現れるが、咳・鼻水は出ないのが特徴。15歳以下の子どもに多く、感染力が強いことから、家庭内での子どもから大人への感染も少なくない。

肺炎球菌

肺炎の代表的な原因菌。感染すると、大人では主に肺炎になるが、乳幼児で肺炎・中耳炎・細菌性髄膜炎などを引き起こす。子どもの風邪の二次感染原因として多い。肺炎の主な症状は、咳・黄色の痰・38℃以上の発熱で、重症化すると呼吸困難や脱水症状もみられる。高齢者では、食欲がない・元気がないといった状態もみられる。

マイコプラズマ・ニューモニア(肺炎マイコプラズマ)

一年を通してみられる「マイコプラズマ感染症」の原因菌。発熱・全身倦怠感・頭痛を起こす。乾いた咳が出始めると「マイコプラズマ肺炎」へ移行し、咳が止まらなかったり熱が下がらなくなったりする。ほかにも、中耳炎・無菌性髄膜炎・脳炎・肝炎・膵炎・溶血性貧血・心筋炎・関節炎など多彩な合併症がみられる。

クラミジア(肺炎クラミジア)

上気道炎や気管支炎では、乾いた咳が続く。「クラミジア肺炎」に移行すると、粘性の痰が現れる。発熱は38℃未満が多く、のどの痛み・鼻水・声のかすれ・呼吸困難などがみられることもある。ただし、感染しても無症状の場合(不顕性感染:ふけんせいかんせん)があり、自然治癒しているケースも少なくない。高齢者・基礎疾患がある人では重症化することがある。

<コロナウイルスの旧型・新型の違い>

コロナウイルスには、「風邪」のウイルスとして昔からある4種類の「旧型」と、重症肺炎を引き起こす3種類の「新型」があります(COVID-19を含む)。

旧型……風邪ウイルス

風邪の約10~15%を占める。世界中でヒトに蔓延しているウイルス。6歳頃までに、ほとんどの人が感染を経験する。高熱を引き起こすことがあるが、多くは軽症(鼻水・上気道炎・下痢など)で済む。

新型……重症肺炎ウイルス

動物から感染して重症肺炎を起こす新型コロナウイルス。これまでコウモリから感染した「重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV:サーズ)」、ヒトコブラクダから感染した「中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV:マーズ)」が確認されている。高齢者や糖尿病・慢性の心・肺・腎疾患などの基礎疾患がある場合に、重症肺炎を引き起こしやすい。 また、現在(2020年~2022年)、世界中で猛威を振るっているCOVID-19も含まれる。日本において、新型コロナウイルスは感染症法に基づき、感染拡大防止のための様々な措置(感染時の届け出・感染症指定医療機関への入院措置など)が取られている。

(参考)コロナウイルス|国立感染症研究所

https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/9303-coronavirus.html

風邪の発症メカニズムと感染経路

ウイルスなどの病原体が気道に入り、気道粘膜に付着して、侵入・増殖することから始まります。ただし、必ずしも風邪を発症するとは限らず、感染者の免疫力などによって個人差があります。年齢が低い子どもや高齢者は抵抗力が弱いため、風邪を引きやすい傾向があります。

また、風邪の感染経路には2つあります。

飛沫感染(ひまつかんせん)

風邪の原因となる病原体を保有している人のくしゃみ・咳などを、近くにいる第三者が鼻・口から吸いこむことによって感染する。

接触感染

感染者が触った周囲の物(ドアノブ・つり革・コップ・おもちゃ・スイッチなど)に病原体が付着し、その後に第三者が病原体の付着した物を触る。第三者は病原体の付いた手で自身の鼻や口を触ったり、手で食べたりすることで感染する。

風邪の症状

風邪では、次のような自覚症状が上気道(鼻~のど)を中心に現れます。

  • 鼻症状(鼻水・鼻詰まり)
  • のどの症状(のどの痛み・赤み)
  • 発熱
  • 頭痛
  • 全身倦怠感(だるい感じ)

炎症が下気道(気管~肺)まで及ぶと、咳や痰が現れます。

気管支炎とは?

気管支は、気管から枝状に分かれて肺(肺胞)に繋がる部分のことです。肺に空気を届ける働きのほか、外気の異物(ゴミ・細菌など)から肺を守る役割も果たしています。

気管支炎は、気管支の炎症によって咳や痰などの呼吸器症状を起こす疾患の総称です。
気管支炎には「急性」と「慢性」があり、一般的に「気管支炎」というと「急性気管支炎」を指すことが多いです。

気管支炎の原因

気管支炎の原因は、ウイルスによるものがほとんどです。
ウイルス感染に続いて、二次性の細菌感染が起こる場合もあります。
主な原因ウイルスは、風邪と同じくライノウイルス・コロナウイルスなどで、肺炎マイコプラズマ・肺炎クラミジア・百日咳なども原因となります。

また、慢性気管支炎では、「喫煙」が最大の原因となります。
ほかに、大気汚染、受動喫煙、刺激物質の吸入などの環境要因も影響を及ぼします。

気管支炎の発症メカニズム

風邪による上気道の急性炎症が気管~気管支へ波及して、ウイルス感染で気道が障害されると、急性気管支炎を発症します。
二次的に細菌感染を起こして、肺炎へ移行することがあります。
なお、急性気管支炎は冬に最も多くみられます。

気管支炎の症状

急性気管支炎

咳や痰が主症状です。
※風邪から始まるケースが多いので、発熱・鼻水・のどの痛み・倦怠感・悪寒などの風邪症状が伴う場合もあります。

慢性気管支炎

気管や気管支が慢性的に炎症を起こした状態なので、咳・粘り気の強い痰が続きます。
タバコの煙が主な原因となり、何年も咳が続いたり息苦しくなったりする「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」や気管支壁が傷ついて気管支が広がることで、血痰(痰に血が混ざる)や喀血(かっけつ:咳とともに血を吐く)がみられ、肺炎になりやすい「気管支拡張症」では、慢性気管支炎を伴います。

風邪・気管支炎の検査と診断

風邪や気管支炎では、主に発熱・咳・痰などの臨床所見から診断します。
しかし、発熱などが長引くときには、肺炎の合併を鑑別するために、X線検査(レントゲン)やCT検査などを行います。
また、インフルエンザや溶連菌などが疑われるときには、鼻水や鼻・喉の粘液を綿棒で拭ってインフルエンザ検査や溶連菌検査をしたり、百日咳などでは血液検査を行ったりします。

風邪・気管支炎の治療

風邪や気管支炎の原因のほとんどはウイルス感染によるものなので、インフルエンザを除き、特効薬はありません。

風邪や気管支炎は、基本的に自然治癒する病気です。
鼻水や多少の咳が出ていたとしても、食欲があり元気に過ごしていれば特に薬は必要ないと考えられています。
ただし、つらい症状が出ているときは、症状を和らげるためのお薬を使います。

対症療法

    • 水分や栄養補給、安静にする
    • つらい症状に応じた薬の処方
    • 発熱……解熱剤(アセトアミノフェンなど)
    • 咳……咳止め、気管拡張剤など
    • 痰……去痰薬など

※必要に応じて、漢方薬なども使用します。

抗菌剤(抗生物質)の内服

風邪に対しては、基本的に処方しません。
ただし、気管支炎で「細菌感染」が疑われる場合には、抗菌剤(ペニシリン系・セフェム系)を使用することがあります。
また、マイコプラズマ肺炎・クラミジア肺炎などでは、ペニシリン系の抗菌剤では効かないため、マクロライド系・テトラサイクリン系・ニューキノロン系の抗菌剤を使用します。
当院では抗菌剤の適正利用に基づき、診療を行っております。

(参考)抗菌剤の適正利用|AMR(国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター)

http://amr.ncgm.go.jp/general/

よくある質問

風邪症状で病院を受診する目安を教えてください

一般的な風邪症状であれば、発症から3日程度で次第に改善していきます。
改善がみられず、むしろ悪化しているような場合には、医療機関を受診(再受診)すると良いでしょう。

風邪による受診のポイントは、次のとおりです。

  • 3日経っても、症状が良くなっていかない
  • 生後5か月以下での発熱
  • 熱が3日以上続く
  • 咳が1週間以上続く
  • 普段の様子とは異なる(食欲がない、耳が痛い、緑色の鼻水が出るなど)

風邪や気管支炎を予防するには?

風邪や気管支炎にならないためには、普段からウイルスや細菌感染を起こさないよう努めることが大切です。

  • 人込みの多い場所や冬や空気が乾燥するときに外出する際には、マスクをする。
  • 食事前や帰宅時など、必ず手洗い・うがいを行う。
  • くしゃみ・咳が出るときは、鼻と口をティッシュや衣服で覆うなど、ウイルスを飛ばさないよう「咳エチケット」を守る。

余っている抗生物質(抗菌剤)を風邪や気管支炎のときに飲んでも良いのでしょうか?

答えは「NO」です。
風邪や気管支炎を引き起こす病原体のほとんどは「ウイルス」です。
抗生物質(抗菌剤)は「細菌」に効く薬なので、ほとんどの風邪や気管支炎には効果がありません。
中途半端に抗生物質を飲むことによって、症状が消えてしまい正しい診断ができなくなったり、抗生物質が効かない細菌(耐性菌)を生み出すきっかけになったりします。
医師からの指示がないときに「抗生物質」を服用することは、絶対にやめましょう。

ただし、「細菌」が原因の場合には、抗生物質を処方します。
その際には、必ず医師の指示した回数分をきちんと最後まで服用しましょう。
熱が下がった・つらい症状はなくなったという自己判断で服用を中止すると、耐性菌を生み出すことに繋がりますので、こちらも絶対やめましょう。